番組冒頭、画面いっぱいにテロップが表示された。
「この番組には不適切な表現が含まれておりますが、1989年に起きたザ・タイマーズの放送事故の検証ドキュメンタリーであるため一部あえて当時の表現をそのままに残しています。」
それは、『拝啓!ザ・タイマーズ~あれから35年~』と題されたドキュメンタリー。11月16日にCS放送のフジテレビNEXTで2時間の完全版が放送されたものが、1時間に再編集され、「ダイジェスト版」として地上波で放送された。
完全版では、タイマーズ結成に至る経緯も詳しく語られるが、地上波版は、1989年10月13日の『ヒットスタジオR&N』での演奏について語られた部分を中心に編集されていた。いわゆる「生放送の放送事故」の代名詞的な放送だ。本来は「偽善者」を歌う予定となっていた2曲目を騙し討的に変更し、「FM東京(現・TOKYO FM)」を名指しで「腐ったラジオ」などと罵倒した曲を歌ったのだ。その歌詞には放送禁止用語も含まれていた。番組では、その出演部分をほぼノーカットで放送(さすがに放送禁止用語の部分はピー音で修正されていたが)。そこに「カメラの後ろは大騒ぎでしたよ。みんな走り回ってて」(三宅伸治)、「副調整室からダーッと降りてきて、(レコード会社担当者の)近藤(雅信)さんを囲んでサーッと連れて行ったんですよ」(川上剛)といったバンドメンバーの生々しい証言が添えられる。慌てぶりがよくわかる。
そんな中、驚くべき事実が明かされた。このときディレクターを務めていた水口昌彦が言うのだ。
「実は生じゃなかったんです」
『ヒットスタジオR&N』は、古館伊知郎とGWINKOを司会に据えて生音楽番組としてスタートした。だが、思わぬ問題があった。GWINKOが16歳だったのだ。深夜労働ができない年齢(ただし、当時はまだ曖昧な規定だったという)だ。そのため、この回は当日の夕方に収録し、撮って出しの形だったのだ。編集する時間がなかったからそのまま放送したというが、ある種、確信犯的な気持ちがあったのではないか。いまはいかに問題を起こさないかが重視されがちだが、当時のテレビ、特にフジテレビは、そうではなかったように思う。いかに“事件”を起こすか。それが正義だったに違いない。事実、水口もプロデューサーに放送の可否を確認したそうだが、「いいんじゃない?」という答えだったという。
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source : 週刊文春 2024年12月26日号