いつも誰かと食卓を囲んでいた私にとって、「家」ってほとんど「キッチン」なんです。|有賀 薫

新・家の履歴書 第823回

樺山 美夏
ライフ ライフスタイル

(ありがかおる 食の活動家・スープ作家。1964年東京都生まれ。10年以上前から毎朝スープを作り続けてSNSで発信。シンプルで味わい深いスープレシピが人気を集めて雑誌、テレビなどで活躍。著書に『スープ・レッスン』『朝10分でできるスープ弁当』『有賀薫のベジ食べる!』など。)

 

 事業を営んでいた祖父が広尾に建てた生家は、広いキッチンとリビング、応接室、客間、お手伝いさんの部屋がある2階建ての家でした。4歳から14歳までは父の仕事の関係で横浜の団地暮らし。祖父が他界した後、生家を更地にして6軒の家を建て、祖母と父のきょうだい六世帯が集まって住むことになったので、14歳でまた広尾に戻りました。20畳のダイニングキッチンとリビングは親戚と共用でお客さんも多かったから、子どもたちが料理を手伝うのは日常茶飯事。いつも誰かと食卓を囲んでいた私にとって、「家」ってほとんど「キッチン」なんですね。

 有賀薫さんが「スープ作家」として初の著書『365日のめざましスープ』を発表したのは52歳のとき。1964年に3人きょうだいの長女として東京に生まれた有賀さんが、毎日スープを作り続けるようになったのは、元を辿れば食道楽の父親の影響だった。

 父は缶詰の缶や食品容器を製造する東洋製罐という会社に勤めていて、食への興味関心が人一倍強い人でした。愛読誌は『暮しの手帖』で、新聞に載っている料理レシピを切り抜いてスクラップするほどマメな性格。外食が嫌いで自分で料理もしていたけれど、簡単で食べ応えのある男の料理より味噌汁やきんぴらごぼうのような家庭料理を作っていました。特に出汁にはこだわりがあって、築地市場で昆布や鰹節を買ってきていましたね。

 料理研究家の丸元淑生さんが『システム料理学』という本で紹介した、エレクトロラックスという外国製の冷凍庫付き冷蔵庫を父が購入したことがあります。「新巻鮭を1本買って切り身を冷凍しておくといいらしい」と言うので、母は「そんなことできるわけがないじゃないですか」と呆れていました。父は栄養豊富で美味しいものをシステマティックに食べたい人だったから、理屈優先で合理的。でも食べ盛りの子ども3人を育てている母にしてみれば、「そんなの無理よ」ってなりますよね。

 お正月なんて大変。12月になると「頭が痛い」が母の口癖でした。父方の親戚も料理上手で、叔父がだし巻き卵を焼いたり、伯母がプロ顔負けの料理を作ったり。だから大分の田舎で育った母は気後れしていたんだと思います。私が実家で暮らしていた十数年間は、バブル経済に移行する時期。都心は食材も豊富でした。家族も親戚も庶民的でしたけど、食卓は『家庭画報』に出てくるようなキラキラした世界に見えましたね。

予算の範囲で気に入る物件を探していたら都心からどんどん遠ざかって……

 ただ母も好奇心は強かったから、お菓子教室で習ったチーズケーキを焼いてくれたこともあります。それを見て私も興味を持って、小学生の頃から『メアリー・ポピンズのお料理教室』などのレシピ本を図書館で借りてお菓子作りをしていました。母方の祖父母にクッキーを送ると「美味しい、美味しい」って電話で喜んでくれるのが嬉しくて。「人に食べ物を作ると喜んでもらえる! 喜びしかない!」と思いましたね。

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source : 週刊文春 2023年3月23日号

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