(たいらこうじ 歌手。1949年、長崎県佐世保市生まれ。69年、『なぜ泣かす』でデビュー。72年、『バス・ストップ』が自身最高となるオリコン11位を獲得。累計売上100万枚を超える大ヒットとなる。2015年、佐世保観光名誉大使に就任。22年、新曲『愛する君にありがとう』をリリース。)

 

 ヒット曲を狙って54年歌い続けてきました。でも、ミリオンセラーは1曲だけです。『バス・ストップ』。歌手としての僕の宝です。

「♪バスを〜」という歌い出しが印象的な名曲『バス・ストップ』で知られる歌手の平浩二さんは、戦争の余韻が残る1949年、長崎の佐世保市で生まれた。

 佐世保は軍港でしたから、船が入ると町は米兵で溢れ、繁華街は賑やかでした。

 父は造船関係の仕事をしていました。両親と姉3人、そして僕と弟妹の6人きょうだいの8人家族。市営住宅でちょっと窮屈でしたが、中学の時に高台の戸建てへ引越しました。真正面に旧国鉄(現松浦鉄道)の「北佐世保」駅を見下ろす景観には恵まれていましたが、台風の季節は大変。吹き晒されるので、戸板が飛ばされないように、弟と大工仕事を手伝わされましたね。

 特に思い出されるのは昭和天皇のお召し列車です。我が家は絶好の“特等席”でしたから、陛下のお姿を直に拝見できずとも行幸を目の当たりにしてそれはもう大騒ぎでした。

 音楽は子供の頃から親しんでいましたね。姉3人が、橋幸夫さん、舟木一夫さん、西郷輝彦さんの“御三家”に憧れ夢中になっていたので、僕はいやが応でも彼らの歌声を聞かされる羽目になり、その影響が大きかったと思います。だから、僕自身も小学校の高学年に上がった頃には歌手に憧れて、実際、地元長崎放送の童謡番組に予選を勝ち抜いて出演した時なんか、夢のスターになったような気持ちでした。人前で歌うのを物おじしないし、むしろ好きなくらいで、そこにもってきて出しゃばりときていましたから。

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source : 週刊文春 2023年3月16日号