人生の混迷期に入ったのは大学生のときだった(それがまだ続いている)。
大学の近くに四畳半の部屋を間借りして、万年床から出る手間を省くため、すべての物を手の届く範囲に配置していた。ゴミ屋敷になってもおかしくなかったが、ゴミが出るほど物を買えなかった。その中で、ただひたすら哲学の研究に打ち込んでいた。
こう書くと、目を輝かせて研究に励む春秋に富んだ若者を思い浮かべるかもしれないが、実際には絶望の淵でもがき苦しむ毎日だった。金も就職も愛も幸福も未来も捨て、哲学の問題と格闘していたが、解決の見込みも兆しもなかった。あらゆる解決の可能性を探っては失敗に終わる絶望の暗闇の中でもがいていた。
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source : 週刊文春 2023年6月29日号