【前回までのあらすじ】大学三年生の山田健は、大学のキャンパスで自身のYouTube「フクメンTV」の視聴者だと語る銀髪の紳士に突然呼び止められたことを思い出していた。配信内容の低俗さゆえ、配信者であることがバレれば採用に響くはずだと就職を心配する健の言葉に、ファンであるはずの紳士はとりなすこともなく頷く。戸惑う健にさらに紳士が言葉を続ける。

 

「結局、人件費が一番高いですからね。企業だって採用は大勝負ですよ」

 言外に「就職は無理だ」と言われているようで、健は少しムッとした。人としての有能性を否定されたようにも思えた。話すほどに男のイメージが歪み、モザイクが掛かっていく。

「あなたにはこのまま突っ走ってもらいたいなぁ。地道に生きることなんか考えないで、華々しく散ってくださいよ」

 屈託のない笑みを浮かべる男に、健は無言のまま頭を下げた。

「では、私はこちらの教授に用がありますので」

 あの銀髪は自分の正体を知っている――。

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source : 週刊文春 2023年7月13日号