山田健は幼少のころから、取り立てて語ることのない地味な存在だった。クラスの人気者の周りで愛想笑いをしているタイプだが、一人のときは「スターな自分」を想像し、嫉妬の感情をやり過ごしてきた。

　初めて彼女ができたのは大学一年のとき。同じ大学の学生だったが、わずかひと月半でフラれてしまう。「健君は違う星に住んでるみたい」というよく分からない理由だったが、その彼女は一週間もすると他の男と手をつないでキャンパスを歩いていた。

　入学したときからコロナ禍だったため、不完全燃焼の学生生活を送ってきた。親友と呼べるのは基礎ゼミが一緒だった坂下のみで、とんかつ店、コンビニ、ゲームセンターとこれまでのバイト先も同じ。未知のウイルスのせいで窮屈なキャンパスライフだったが、坂下から「YouTubeやらへんか？」と誘われてから平凡な日常に光が差し始めた。

　冴えない男二人が「幸福メンズ」を目指し、出演者の健がリアルな馬の覆面をかぶって登場することから「フクメンTV」と名付け、アニメやゲームにイチャモンをつけるというスタイルで配信を続けた。

　だが、話術も知識もない大学生が毒を吐いたところで目新しさはなく、その上画質や編集技術のレベルも低い。再生回数がひと桁の回もあり、活動は早々に行き詰まった。

　初めて再生回数が一万回を超えたのは「心霊スポットシリーズ」だ。現場へ行き、一切の曰くを伝えずにフルーツだけを食べて帰るという企画で、さらに素顔にモザイクをかけるため、視聴者は何を観させられているのか分からなくなる。

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