踊りつかれて 第2回

塩田 武士
エンタメ 読書

【前回までのあらすじ】「宣戦布告」と題した文章には、匿名性を笠に着たネット上の人々への批判と二人の芸能人の名が記されていた。一人は週刊誌で不倫が報じられ、ネットで炎上した結果、飛び降り自殺したお笑い芸人の天童(てんどう)ショージ。もう一人は、八〇年代にデビューした歌手の奥田美月(おくだみつき)だ。彼女もまた週刊誌の記者への暴言テープが流出し、活動に陰りがさしていく。

 

 俺だって彼女に何一つ責任がないなんて言わないよ。確かに多少天狗になっていたところもあるし、酒に溺れて声質が変わったのもプロ意識の欠如だ。でも、十六のときから華やかな世界でチヤホヤされて、調子に乗らない人間なんている? 金のなる木に群がる芸能界、売れれば何書いてもよかった芸能報道、その環境が美月を持ち上げて突き落としたんだろ。

 もうショックなんて言ってられなくなって、応援しなきゃって。俺たちが美月を支えなきゃって。熱く思うんだけどできることなんかないんだよ。無力を痛感したよ。彼女の歌がない人生はしんどいって骨身に染みて分かったけど、奥田美月は九〇年代半ばから唯一の例外を除いて、姿を消してしまった。たまに週刊誌やスポーツ紙が真偽不明の憶測記事を書いているけど、信用はしてない。

 俺が心の底から愛した芸能人は、奥田美月と天童ショージだけ。二人とも週刊誌とおまえらに抹殺されてしまった。

 おい、間違っても自業自得とか民法上の云々なんて薄っぺらいこと言うんじゃないぞ。二人は犯罪者でも何でもないからな。無理やり悪人の鋳型に流し込むのは、それこそ悪人がやることだぜ。何度でも言うけど、おまえらには関係のないことだからな。全て当事者間で解決する問題だから。

 これまではさ、忘れてくれたじゃん。時間が笑い話にしてくれたじゃん。でも、今は永遠に記録されて蒸し返される。ネットに公開する奴がいる限り、過去の過ちが鮮度を保ち続けるんだよ。赦されない社会になってしまったんだよ。裁判所が「忘れられる権利」を認めない国なんだから、一度でも道を踏み外したら針山に突き刺さるわな。

 なぁ、おまえたちの不倫や暴言は報じられないのに、同じ国民の義務を果たしてる芸能人のプライバシーがめちゃくちゃにされる根拠って何なの? みなし公人って何だよ。「広く影響を与える存在」って何だよ。そのくせ「芸能界は甘い」だの「辞めて一般社会で働け」だの言って追い詰めるの、おかしくない?

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source : 週刊文春 2023年6月29日号

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