「法の支配」は民主主義の基本だ。実際、独裁者の気まぐれですべてが決まったらたまったものではない。だがわたしは子どものころ、法の支配を軽蔑していた。

 あこがれのヒーローは、規則や法律に訴えたりせず、力ずくで正義を実現する。どこのヒーローが弱い者いじめをしている悪人に向かって、六法全書を開いて見せるだろうか。

 敵は規則など鼻で笑う連中だ。ヒーローは月光仮面や戦国武将のように、あるいはヤクザ映画やマカロニウェスタンの主人公のように、力で闘うべきだ。

 いまも「失礼だ」(礼儀という規則に反している)、「ズルい」(公平の原則に反している)などの感覚は希薄だ。権力者の息子が優遇されていれば腹は立つが、「ズルい」とは感じない。女性店員が肉の多い方のカレーをイケメンの友人に出したら、腹は立っても「ズルい」とは思わない。不公平だとかズルいという観念が乏しいのだ。

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source : 週刊文春 2023年10月5日号