1932年に起きた五・一五事件で犬養毅首相が暗殺されたことは201回で説明しました。今回は国内政治が軍部に引きずられていく様子を見ていきましょう。

 元老の西園寺公望(さいおんじきんもち)は「挙国一致せな、もう軍部は抑えられへん」と考えます。そこで政党による内閣ではなく、首相を軍人にし、大臣は政友会と民政党の両党から入れた挙国一致内閣を作りました。

 首相に選ばれたのは海軍大将の斎藤実(まこと)です。朝鮮総督として文化政治を進めた手腕が評価されました。

 蔵相には高橋是清が再び起用されます。高橋は昭和恐慌で困窮する農山漁村救済のために大量の赤字国債を発行して日銀に引き受けさせました。金利を下げ、通貨発行限度を1億2000万円から一気に10億円に引き上げてインフレに誘導し、経済を急回復させたのです。これで恐慌前の水準に戻すことに成功します。さらに陸軍予算を上手に削り、軍事のための公債発行を認めませんでした。

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source : 週刊文春 2023年10月26日号