2023年10月11日、この日は将棋界にとって歴史的な日になった。王座戦第4局で藤井聡太七冠が永瀬拓矢王座に勝利。3勝1敗として王座を獲得すると共に、全冠制覇そして史上初の八冠を達成したのだ。
第4局の終盤はドラマを見ているようだった。敗勢の藤井七冠は守りを諦めて攻め合いの銀を打つ。おそらくそれは形作り(負けを分かっていて相手玉に迫る、散り際の美学)で、一種の開き直りだっただろう。事実、ここでAIの評価値は99対1まで差が開いた。
だが藤井七冠の形作りは(一手でも間違えたら逆転しますよ)という迫力がある。そして長時間対局による疲労、秒読みの悪魔が永瀬王座を襲う。勝勢は確信できても、エアポケットに入ったように最後の決め手が見つからない。59秒まで読まれて選んだ手が無情にも敗着となった。
棋士なら誰でも経験がある大逆転。指した瞬間に勝利がすり抜けたことに気が付き、同時に本来の勝ち手順が脳内になだれ込む。
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source : 週刊文春 2023年10月26日号