(ひだかのりこ 声優・俳優。1962年、東京都生まれ。アイドル歌手を経て84年声優デビュー。代表作に『タッチ』の浅倉南、『となりのトトロ』の草壁サツキ、『らんま1/2』の天道あかねなど。12月にプレミア音楽朗読劇『ヴォイサリオンⅩⅤⅡ スプーンの盾』(日比谷シアタークリエ)に出演。)
故郷は東京・千代田区の九段です。今でこそビルが立ち並んでいますが、昔は住宅街で個人商店が並び、下町情緒溢れる街でした。歩道に蝋石で落書きしていたら、近所の方が「いっぱい描いたねぇ」と目を細めて、最後に水で洗い流してくれたり。たくさんの大人たちに見守られていた子供時代でしたね。
誰もが耳にしたことのあるあの声――。『タッチ』の浅倉南をはじめ、多くの国民的アニメを担当してきた声優の日髙のり子さんが生まれたのは1962年。この年、世界初の1000万人都市となった東京のど真ん中で日髙さんは育った。
生まれた時は練馬区のアパートに住んでいたんですが、ここでの記憶はほとんどなくて。4歳になる頃に、父が家業のテーラーを継ぐために、九段にある店舗兼生家に引っ越したからです。父はテーラーの三代目で、実家には私の祖母と、当時未婚だった2人の叔父も住んでいました。そこに私と父、専業主婦の母、2歳下の弟が加わり、引っ越し直後にもう一人弟が生まれたので、8人の大所帯です。
お店の見栄えを意識してか、正面だけは白壁で洋風のたたずまいでしたが、家の裏側は明らかに古い木造家屋。看板が載っている屋根は瓦屋根でした。通りからお店の入り口を入ると、八畳ほどの店舗スペースがあり、作業台では通いの職人さんが2人、生地を裁断し、足踏みミシンをかけていました。店舗から狭い廊下を隔てた六畳の和室は、祖母と叔父の寝室。家族の居間も兼ねていて、食事もこの部屋でした。職人さんの休憩場所でもあり、夏休みには一緒に昼ご飯を食べていましたね。
2階はもう一人の叔父が使っていた六畳間と、私たち家族の八畳間。私と上の弟が2段ベッドに、両親と下の弟は布団を敷いて寝ていました。
鳴かず飛ばずのアイドル時代。リスナーのハガキで声優挑戦を決意
私たち家族が使う玄関脇には店舗に通じるガラス戸が。店舗部分だけはエアコンがあったので、真夏になると、弟と一緒にガラス戸を数センチ開けて「あ〜涼しい!」なんてやって父に怒られたり(笑)。
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source : 週刊文春 2023年11月2日号