若さはすばらしい。青春真っ盛りの時期は人生の頂点だ。生物学的にも、最も充実した活動期だ。

 昔、そういう若者を具現していたのは加山雄三氏扮する「若大将」だった。健康的に日焼けして、悩まず苦しまず、一点の曇りもなく明るく爽やかな青年が、のびのびとして夏の太陽のように輝き、眩しい存在だった。「幸せだなぁ」というセリフをこれほど自然に吐ける人物は他に考えられなかった。

 正反対の生活をしている若者もいた。わたしである。20代のころモヤシのように青白く、哲学の問題が解けないことに煩悶し、いつも鬱々として、藁にもすがる思いで難解な論文を昼間はカビ臭い図書館、夜は四畳半の下宿の万年床で解読しようと努力しても一日に1、2ページしか進まず(後で分かったが誤解だらけだった)、来る日も来る日も気が晴れず、どこをどう押しても「幸せだなぁ」というセリフなど出てこない泥沼でもがいていた。

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source : 週刊文春 2024年5月30日号