「あえか」「あやかりもの」「あだなさけ」「いろけし」「いつび」……といった言葉の意味がわかるだろうか。『辞書で呑む』は、そんな言葉を辞書で引きながら、その語釈や用例をつまみに酒を呑む、司会の麒麟・川島いわく「テレ東丸出し」の番組だ。今年1月、お正月特番として第1弾が放送。「1時間『あ』だけで行きたい」というスタッフの意気込みどおり「あ」から始まる言葉だけで大盛りあがり。早くも4月に、今度は「い」だけの特番が放送され、5月からは7週限定ながらレギュラー化された。レギュラー版では30分になったため、一字を前後編にわけ、「あ行」を一通り扱うようだ。「辞書呑人(のみんちゅ)」と呼ばれる出演者は、番組の性質上、芸人以外にも、ミュージシャンの岡崎体育やヤバイTシャツ屋さん・こやまたくや、ラッパーのDOTAMA、覆面小説家・麻布競馬場など、バラエティに出演することが滅多にない人がキャスティングされているのも魅力だ。
冒頭にあげたうちの一語「いつび」とは、「溢美」と書き、「美」は「褒める」の意があるため、「褒めすぎる」ことを指す。その「美」は「美味しい」の意味もあり、「美酒」といった言葉もある。一般的には「びしゅ」と読むが「うまざけ」とも読むことが「う」の回では取り上げられた。そこから自分にとっての「美酒」の話に。川島は、相方が先に売れくすぶっていた時期に「『IPPONグランプリ』に出ないと人生変わらない」と考えていたが、呼ばれなかったため、1~2年目の若手芸人に混じって応募して参加する予選的な大会に出場したときのエピソードを披露。2度目で優勝し「トロフィーもらって、それ持っていつも行ってるちっさな居酒屋さんに行って、それと乾杯して飲んだ」と。一方、銀シャリ・橋本はこの話にかぶせた嘘のエピソードを語り、「うそざけ」(酒の場での笑いを求めて嘘をつくこと)なる“新語”を生んでしまう。実際に酒を呑んでいるからか、居酒屋トークのように深みのある話から軽口までがシームレスに続いていく。また秀逸なのが、テーブルこそ別だが、同じ空間に辞書編纂者・飯間浩明や三省堂の辞書出版部長・山本康一、辞書界のレジェンド・見坊豪紀の孫で辞書マニアの見坊行徳といった専門家もいることだ。タレントだけで進めると間違った解釈のまま行ってしまいがちなところを、専門的な視点で解説を挟んでくれる。しかも、彼らも一緒に酒を呑んでいるから、“専門家然”とならず軽やかな感じが心地いい。
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source : 週刊文春 2024年6月13日号