格好いいねえ、宇野亞喜良さん。東京オペラシティで四月から開催されている展覧会場では、彼が約七〇年間にわたり描いたイラストやポスターにうっとり見惚れ、心ときめかせた。

 宇野亞喜良を特集した『日曜美術館』を観ると、彼が描く“笑わない少女”“物憂げな少女”の美しさと新しさが改めて甦った。ただの美少女じゃないの。これまで見たことがない新しい少女を彼は描いた。

 そして今年で九〇歳になった宇野さんの佇まいが、これまた素敵なんだ。港区麻布十番の仕事場で制作に打ちこむ姿といい、司会進行役の女性たちに応じる姿も、物腰あくまで柔らかく、しかし文化人タレントの意味ない笑いは決して浮かべず、格好いいんだよ。

宇野亞喜良 ©文藝春秋

 私が宇野さんの作品を初めて目にしたのは、矢崎泰久が一九六五年末に創刊した「話の特集」だった。創刊直後に休刊したと思ったら、しばらくして復刊したりと一般読者に知られるまでに時間がかかった。私は第三号から購入した。高校三年生の春だ。

「話の特集」の頁を開いて衝撃だったのは、デザイン感覚のシャープさだった。表紙は横尾忠則。宇野さんは栗田勇『愛奴』には硬質でビザールな画風を、そして寺山修司『繪本千一夜物語』ではコミカルな味わいを前面に出す。凄いなあ、この人。瞬殺されました。

 高三の六月だった。午前中で学校を抜けだし国分寺の喫茶店で「話の特集」を読んでいた。他のクラスのサボリ組の一人が「え、その表紙、横尾忠則だね?」と話しかけてきた。「ちょっと見せてくれる」。私が手渡すと「あ、宇野さんや田中一光さんまでイラスト描いてる。凄いねえ」と呟く。初めて話した生徒なんだけど、これが縁でいまだに親友付き合いしている。

「話の特集」が横尾、宇野らを起用したことで日本にイラストの概念が定着した。小説に添えられた絵は挿絵と呼ばれていた。それが宇野らの登場でイラストに取って代わられた。

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source : 週刊文春 2023年7月13日号