「喜びにあふれた会に」。自らの葬儀の準備を進める大野さん。彼女の死生観に影響を与えたのは12歳で亡くなった少女だった。

 

 浦安教会の牧師、笠田弘樹(63)が大野寿(ひさ)()の自宅(千葉県浦安市)を訪ねたのは7月21日である。「聖餐式(せいさんしき)」のためだった。

 イエス・キリストの福音を身体で受けとめるための儀式で、浦安教会では毎月一度、開かれている。肝内胆管がんで6月末、「余命1カ月」と言われた大野には足を運ぶ力がない。そのため牧師自らやってきた。

 笠田が聖書を読み上げる、ベッドの大野は目を閉じ、胸の上で両手を結ぶ。横では、夫の朝男と娘の柴田(さち)()が頭を垂れている。笠田がパンとブドウ酒の杯を手渡すと、大野は無言で受け取り、口に運んだ。

 式の終了後、大野は謝意を伝え、言った。

「先生、葬儀では楽しい説教をお願いします」

 葬儀は、自分が活動する浦安教会で開く。葬儀社との打ち合わせも済ませた。

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source : 週刊文春 2024年8月8日号