自殺にみせかけ婚活相手を次々殺めたとして、死刑判決が下った希代の“悪女”――木嶋佳苗はいつ、どこで道を踏み外したのか。その半生を追うノンフィクション開幕。

「それで佳苗はいつ死刑になるんですか? まだ生きているんでしょ? 佳苗が罪を認めることなんて絶対にないですよ。謝罪だって、するわけがない。だって、佳苗は昔からそうだもの。『私じゃありません』『知りません』って平然と嘘を言う。小学生の時からそうだった。私は佳苗に濡れ衣を着せられて、一度、ひどい目にあったことがある。小学生の時だった。その時に思った。佳苗は怖い人なんだって。

 私は佳苗に嘘をつかれて、抗議した。『ひどいじゃないっ。なんで嘘言うのよ』って。でも、佳苗はただ笑ってた。今、佳苗は刑務所にいるんですか? 拘置所? そう。でもね、きっと飽きてないですよ。飽きてない。ずっと妄想してるから。きっとそんなに苦痛じゃないはずですよ」(小学校の同級生)

 北海道()(つけ)(ぐん)(べつ)(かい)(ちよう)――。

 対向車もない一本道を、車は走り抜けていく。

 白樺やカラマツの林の中を。どんぐりの実を落とすミズナラや楓の色づく中を。放たれた牛たちがまどろむ牧場の中を。遠くに白く点々と見えたものは、大地にくちばしを入れ、何かを夢中でついばんでいる白鳥と鶴の群れだった。

 眼に映る何もかもが、本州とは違う。だから、つい私は黙り込んでしまうのだ。この土地の自然の力強さ、生命の息吹を目の当たりにして。

 東京で読み込んだ裁判資料の一節が、ふいに思い出された。

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source : 週刊文春 2024年8月15日・22日号