能の「鵜飼」は現在の山梨県の石和が舞台で、そこを一人の旅の僧が訪れるところから物語が始まる。日暮れになり、ある民家に一夜の宿を頼もうと僧が立ち寄ると、その家の主人は意外にも次のように言って、僧の依頼を冷たく断る。
「お泊めするのは難しくはないのですが、あなたのような往来の方に宿を貸すことは禁止されていますので、お泊めすることはできません。……ムラの『大法』を私一人で破るわけにはいきませんので、どうか、どこかへ急いでお立ち退きください」
主人のつれない返事に、仕方なく僧は村はずれの笛吹川の川端の惣堂(ムラの共同管理の仏堂)に転がり込み、そこで夜に鵜飼の霊と遭遇することになる――。
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source : 週刊文春 2024年8月29日号