【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは、恋人の浩太の家にあった狩猟雑誌を読んで狩猟の世界に惹かれ、銃砲店を訪れる。店主の堀井から紹介された猟友会会長の新田は、父の会社の取引先である新田工作所の社長だった。新田に、ハンターの情報交換の場になっている事務所に来るよう誘われて父と一緒に訪れ、狩猟を始めるまでの手続きについて教えてもらう。
新田の事務所に狩猟の話を聞きに行った帰り道、マチの口数は少なかった。
各種手続き、費用面の問題など、乗り越えるべきハードルは思ったよりも多く、高い。しかしそれに怯んでいるのではなく、新田らが口にした、狩猟をする動機の話が胸の中で存在を主張している。
なぜ自分が銃を持ち、狩猟をすることに心惹かれるのか。まだうまく説明することができない。行動に移すうちに動機がわかるのかもしれない。それは、まだ見ぬ心の領分を暴くようにも思えて、心の芯が緊張した。いや違う。トレイルランをしていた時の、スタート前の気分に似ている。緊張しているのではなく、集中しているのだ。全身の毛穴が開いているような気がして、マチは無意識に腕をさすった。
「寒い? 暖房つけるか」
「あ、ううん、大丈夫」
父の義嗣の気遣いを断って、マチは父もすっかり無口になっていたことに気付いた。そして、新田の事務所でうっすら感じていたことを口にする。
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source : 週刊文春 2024年11月7日号