理想の最期について聞く「私の『大往生』」。第3回は訪問診療医の小堀氏。700人以上の患者を看取り、87歳の今も週3日訪問診療を続ける現役医師が想定する自分の最期、そして祖父・森鷗外から受け継いだものとは?
訪問診療医で、作家・森鴎外の孫としても知られる小堀鷗一郎氏(87)。これまで数多くの患者を看取り、その最期を『死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)に記した。「理想の最期」を迎えるために必要な心構えを小堀氏に尋ねると――。

僕が在宅医療に携わるようになって、20年が経ちました。これまで700人以上の患者さんを看取ってきた中で感じたのは、多くの人が自分や家族がいずれ死ぬという実感を持てていないことです。
「人生100年時代」が謳われる中、老化予防、介護予防が挙国一致で推進されるようになり、人々の意識から「死」が追いやられてしまったように感じます。そうした傾向は、2012年度の健康食品・サプリメント市場の「抗酸化・老化予防」カテゴリーの市場規模が、610億円に拡大していることにも表れているでしょう。
しかし、健康寿命と平均寿命の間に男性で約8年、女性で約11年の開きがあることからもわかるように、最期まで健康に過ごす、いわゆる「ピンピンコロリ」を実現するのは、現実的には非常に難しい。
医療には「命を永らえる医療」と「命を終えるための医療」があると僕は考えています。いつか来る「老い」と「死」の前に前者の医療は無力で、無理な延命が必ずしも患者にとって最良の選択とは限りません。となると、どこかで後者の医療にシフトしなければならない。
例えば患者が、老衰して食べ物を飲み込む力がなくなり、食事ができなくなった。この場合、患者は「食べたり飲んだりできないから死ぬ」のではなく、死期が近づいて食べたり飲んだりする必要がなくなったと解釈すべきでしょう。そんな患者を入院させて点滴したり、胃ろうを造設したりしても、かえって苦しい思いをさせてしまう。それなら患者の負担にならない最低限の水分補給のみで、緩やかに最期に向かわせてあげたほうがいい。
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source : 週刊文春 2025年8月7日号
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