文春オンライン

独自の進化をとげた中国の「カラオケ文化」は日本を超えたか

スマホアプリからガラス張りの「ミニカラオケボックス」まで

2019/06/27
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カラオケアプリ「唱ba」のユーザーは2億人

「カラオケはちゃんと歌うならカラオケボックスへ」――そんな中国のカラオケの常識が大きく変わったのは2012年のこと。低価格なスマートフォンが入手可能となり、スマートフォンが身近な存在となって、ゲーム以外の使い方も模索され始めた年でもあります。

 2012年の5月に「唱ba」(※baは口編に巴)というカラオケアプリが登場します。スマホをカラオケにするというものです。これに若者が動きました。初日に10万人がアプリを登録し、最初の5日間でAppStoreのランキングでトップに躍り出ました。2013年10月に、ユーザー数は1億人、翌2014年には2億人になりました。中国のインターネットユーザー数は約6億5000万人(2014年末)という統計が出ていますので、実に3人に1人が「唱ba」を利用していました。「唱ba」によって、家の中で若者を中心にカラオケで歌うようになり、カラオケの習慣自体が変わったのです。

 比較対象として、日本で頑張っている人気のカラオケアプリ「nana」を挙げてみます。2012年8月にリリースされ、3年後の2015年6月に登録ユーザー数が100万人を突破し、最新の公表数値では2018年11月に700万人を突破したとしています。中国の人口は日本の10倍以上あるとはいえ、ユーザー数、利用率ともに日本のカラオケアプリは大きく水をあけられています。

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中国のカラオケには日本語の曲も ©山谷剛史

アプリから実店舗への進出も

 2014年の中国で、カラオケについて進化の動きがふたつありました。ひとつはネットで快進撃を続けた「唱ba」が、カラオケの実店舗に進出したというニュースです。「唱ba」は、ネットサービスと実店舗とを連携した新しいカラオケサービスを展開しようと計画しました。5年後、つまり2019年までに2000店舗のカラオケボックスに導入するという目標を掲げていましたが、現在の契約店舗数は500程度にとどまっています。

アプリ「全民K歌」より ©山谷剛史

 もうひとつは、「全民K歌」という別のカラオケアプリの登場です。「全民K歌」は、単に歌えるだけでなく、実況動画(ライブストリーミング)機能や微信(WeChat)の知り合いと自動で繋がって、歌った歌を聞かせたり、知り合いの歌を聞いたりすることができます。これが時流に乗って、「唱ba」を上回る人気となり、2016年末にはユーザー数が3億人を突破しました。

 2017年9月には「全民K歌」も「全民K歌LIVEHOUSE店」というリアル店舗を出店します。これもまた普及したかというと怪しいもので、そうこうしているうちに「抖音(ドウイン)」(TikTokの本家アプリ)などのショートムービー系SNSが登場して、これで気軽に歌って公開する人が多数出てきました。「全民K歌」は生き残ってはいますが、カラオケの常識がまた変わっていったわけです。