野菜作りに欠かせないのは、空気、水、光という自然の恵みである。では、中国産野菜はいったいどのような自然環境で作られているのだろうか。冷凍食品や野菜ジュースなどに形を変え、今も知らず知らずに私たちが口にしている中国産野菜。食卓からは決して見えない産地の実態を調査すべく、本誌取材班は山東省に飛んだ。

見渡す限りのビニールハウスが

 北京から高速鉄道で4時間ほどの距離に「中国の野菜の里」と呼ばれる町がある。山東省寿光市。寿光市には540平方キロメートルの野菜生産基地が広がっており、年間の野菜生産量は400万トンを超える。

 市の中心部から2~3キロ車で走ったところに、寿光市のシンボルともいえる野菜の巨大市場があった。「中国・寿光農産品物流園有限公司」。2009年に20億元(約345億円)かけて作られた世界最大の青果市場である。

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寿光市の青果市場(寿光市ホームページより)

 敷地内に入ると、キャベツ、ニンジン、リンゴ、トマト、みかんなどの農作物を積んだ軽トラックが、クラクションを鳴らしながら激しく行き交っている。深夜2時から午後5時まで営業しており、約1万人が働いているという。

 200ヘクタールの広大な敷地には、数十種類以上の野菜、果物の集荷場があり、中国全土から集まった業者が買い付けていく。他にも、加工工場、ビジネスセンター、ホテルも備わっている。

「この市場から、国内200以上の都市に野菜や果物が出荷されていきます。国内だけでなく、日本やEUなど20余の国と地域に輸出されていきますよ」(市場で勤務していた従業員)

寿光市で行われた「野菜の国際博覧会」に展示された野菜を使った造形作品 ©getty

 巨大な市場を後にして、数キロほど車で走ったところに圧巻の風景が広がっていた。どこまでも続くビニールハウス群。トマト、きゅうり、キャベツ、ニンジン……。見渡す限り、碁盤状に整然と並んだビニールハウスで埋め尽くされている。まさしく巨大野菜生産基地だ。

 ビニールハウスの間を縫って車を走らせる。だが、単調な一本道だからといって迂闊にスピードを出せなかった。

 理由は視界を遮る靄(もや)だ。窓から漏れ入ってくるツンとした化学的な臭いから、それが自然発生した現象ではないことはすぐにわかる。中国全土で深刻な大気汚染問題を引き起こしているPM2.5は都市部のみでなく、田舎の野菜生産地までをも覆い尽くしていたのである。