北京の比ではないPM2.5に吐き気を催した
さらに上流に向けて車を走らせると、もうもうと煙をあげる煙突が見えてきた。レアアースの加工工場だ。すぐ隣には防水材の工場。さらにその奥には、農民たちが口にしていた巨大な製紙工場がそびえたっていた。
工場地帯を進むごとに徐々に靄が濃くなっていく。目が刺すように痛み、むっとした臭いが立ち込める。記者が北京で体感してきたPM2.5の比ではなかった。小一時間、外にいるだけで吐き気を催すくらいなのだ。しかし、住民たちは何食わぬ顔で、マスクなしで暮らしている。
そして、工場の脇を流れる川を見下ろせば、先ほどビニールハウス群のそばで見た川よりはるかに黒ずんだ汚水が垂れ流されているのだ。
製紙工場から出てきた若い男性に声をかけた。
「体には悪いとは思いますけど、生活のためだから仕方ないって感じかな。慣れてしまいますよ」
彼の給料を聞くと、ひと月4000元(約7万円)ほど。直前に取材していた青島の食品加工工場よりも1000元ほど高い。しかし、たった1000元高いからといって、こんな過酷な環境で働き続けられるものだろうか。
子供たちの体は心配だけど……
小さな集落で露店を開いていた20代の女性に声をかけた。
「確かに10年くらい前までは工場もそんなになくて、空気も川もきれいだった。いつの間にかこうなっちゃったんだけど、平気です。ずっと暮らしていると、慣れてしまいますよ」
とケロリと話す。だが、別の地元民によると、「ここの人たちは肝臓が肥大化する病気になっている。30~40代のガンも多い」という。
小さな商店に入り、飲み物を買いながら店主に聞いてみた。
なぜこんな有害な環境下で住み続けるのか――。
「私は工場に土地を貸しているから、1年に1万2000元(約20万円)もの副収入があるんだ。確かに子供たちの体は心配だけど……」
彼の周囲では2~3歳の女の子が飛び跳ねて遊んでいる。彼の孫だ。
「ただ、この豊かさは捨てがたい。数年してカネが貯まったら、もっと南の方に居を移すかもしれないが」
一日の取材を終えて、寿光市内のホテルに戻る。
ビュッフェには、産地の山盛りのサラダや煮物、野菜炒めなどの野菜料理が並べられていたが、手をつける気にはなれなかった。