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川の汚染は上流にある製紙工場が原因

 靄の中を車で進むこと十数分。今度はおぞましい光景が目に飛び込んできた。

 緑色に変色した川。紙屑やビニール袋、空き缶などの生活ゴミも浮かび上がっている。

 車から降りた瞬間に、腐敗した臭いが鼻をついた。ゴミに交じって油も浮き上がっている水面から、川底はとうてい見ることができない。おまけに、ゴミの臭いに誘われて、あたりには無数のハエが飛び回っている。車に戻っても十数匹が入り込んできて、追い払うのに苦労するくらいの夥しい数だ。

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「ドブ川」と呼ぶにふさわしい、汚染された川が、いくつもの細い支流に分かれ、この巨大野菜生産基地の間を入り組んで流れているのである。

この川が農業用水として使われている ©文藝春秋

 ドブ川から道一本隔てたビニールハウスで作業をしていた一家に話を聞いた。トマト、きゅうりなどを育てているという。

「川の汚染は上流にある製紙工場から出る排水が原因だよ。でも、ここは工場から7キロ以上も離れているから大丈夫。ビニールハウスに使う水は160メートルの井戸を掘って、地下から水を取っているんだ。影響はないはず」

 こうは言うが、目と鼻の先に汚水が流れているのだ。川水がどこからか井戸水に流れ込んでいる可能性もあるだろうし、少なくとも土壌は日に日に汚染されているはずである。

農民は「収穫は半分に減った」

 近くの綿畑で作業していた親子に話を聞いた。

「ここは川が近すぎて井戸を掘ったって意味はないさ。みんな製紙工場に不満を持っている。政府に文句を言ったかだって? 役人に楯ついたって犯罪人にされるだけだよ。汚水の影響でかつて1畝300キロとれた綿は、この数年は250キロくらいしかとれなくなったよ」

 人体への影響はあるかと聞くと、「ないわけがない!」と叫んだ。

「だが、いま具体的にどんな影響が出ているかは自分たちにもわからないんだ」

 川の周りで植樹をしていた近隣住民に話を聞いた。30年以上この地で農家を営んでいるという。

「緑化を進めるためだよ。こんなに汚れた川を前にしたらむなしい作業だけどね。うちは、とうもろこし、小麦をやっているけど、ここ数年で収穫は半分に減った。あの水の中にどのような危険なものが入っていて、どう作用しているかは具体的に分からない。ただ、化学物質などが植物の根に影響を与えるのだろう。

 収穫量は半分に減ったよ。収入もね。3年前に汚水の処理場ができたけど、見ての通り、まったく効果はないよ。工場では1000メートルの穴を掘って、そこに汚水を流すような取り組みもやっているらしいが、本当のところは我々住民にはまったくわからない。こうして土はどんどん汚れていく。この先の不安はぬぐえない。

 昔はこの川で子供たちは水遊びし、魚釣りをして遊んでいたんだがね……」