文春オンライン

「怖い話」が読みたい

「このマンション内で亡くなられた方は…」新居に響いた“不気味な音” 新婚夫婦は何を見てしまったのか?

「このマンション内で亡くなられた方は…」新居に響いた“不気味な音” 新婚夫婦は何を見てしまったのか?

続々・怪談和尚の京都怪奇譚――しゃっくり

2022/08/14

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書,

note

スマホに録音されていた“不気味な音”

 朝になって、朝食を取りながら、この話を主人にしました。

「しゃっくり男か、気持ち悪いね」主人は少し馬鹿にしたようにそう言いました。

「すごくリアルな夢で怖かった。もしあのまま夢が続いていたら、振り返った時に、廊下にあの男性が立っていたんじゃないかな。部屋に入って来ていたりして」

ADVERTISEMENT

 私がそう言うと、主人はまたかとあきれていました。私は怪談話が好きで、霊の存在などを信じる方なのですが、主人は真逆で一切信じない人なんです。

「ただの夢だから気にしなくていいよ」

 いつもならそうした主人の態度に不満な私も、この時ばかりは、少し安心した気持ちになりました。

 しかし、そんな私に見向きもせず、主人はスマートフォンをいじっていました。おそらくいびきを自動で録音してくれるアプリを聞いているのだと思いました。

写真はイメージです ©iStock.com

 結婚以来、主人の健康に気を配るのは妻である私の役目だからと、主人にはこのアプリを入れてもらっています。これを聞いて、主人もダイエットしなくてはと思ってくれるといいのだけど……。そんなことを思っていると主人の聞き慣れたいびきが聞こえてきました。グー、ガー。けたたましい音が続きます。グー、ガー……。そしていびきが途切れました。1秒、2秒、3秒……。いびきは聞こえません。4秒、5秒、6秒……。

「ヒック! ヒック! ヒック!」

突然、誰かのしゃっくり音が、はっきりと聞こえたのです。しかも遠くでではありません。あきらかにスマホの間近なのです。

マンションのオーナーに相談すると…

 私たち夫婦はお互いの顔を見合わせました。さすがの主人も驚いた様子で目を丸くしていました。私たちは話し合った結果、主人が仕事から帰ってきたら、1階に住んでおられる、マンションのオーナーさんにこのことを話しに行くことにしました。

 夕方、主人と一家のオーナーさんの部屋を訪れ、しゃっくり男について話し、アプリの音声も聞いてもらいました。そして、私たち夫婦が一番疑問に思っていたことをお聞きしました。

「もしかして、このマンション内でどなたかが亡くなられたとか、幽霊の目撃例があるとか、不可解な事が今までにありませんでしたか」

「奥さん、本気で言っているんですか。このマンション内で亡くなられた方も、幽霊の目撃例も今までありません。そして、これからもそんな事はあるはずないですよ」

 オーナーさんは小馬鹿にするようにそうおっしゃいました。

 オーナーさんは、幽霊の存在など非科学的な事には興味がない方で、アプリの音声も誤作動に決まっているとおっしゃっていました。

「そうですよね。変な事を言ってすみません」

 主人は、すぐに頭を下げて、納得のいかない私の手を引いて、部屋に戻りました。