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「このマンション内で亡くなられた方は…」新居に響いた“不気味な音” 新婚夫婦は何を見てしまったのか?

「このマンション内で亡くなられた方は…」新居に響いた“不気味な音” 新婚夫婦は何を見てしまったのか?

続々・怪談和尚の京都怪奇譚――しゃっくり

2022/08/14

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書,

note

 しかし、もしかしたら見間違えたのかも知れないと思いました。少しお酒も入っていましたし、時々布団が盛り上がっていて、人の形の様に見えて、驚いた経験もありました。そうだ、目の錯覚に違いない。今日は酔っているのかな。私は再び寝室へと行きました。

 静かに扉を開けて、ベッドの方をよく見て息が詰まりそうになりました。やはり誰かが寝ているのです。意を決して私はベッドに近づいて、寝ている人の顔を確認してみようとしました。

 ベッドに寝ているのは、寝間着を着た痩せ細った男性でした。見間違えなどではなく、はっきりと人が寝ているのを確認しましたので、部屋を出ようとしたその時です。

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 ベッドに寝ていた男性は、カッと目を見開き、私を見たのです。そして「ヒック、ヒック」としゃっくりを始めたのです。

 私は恐怖のあまり、身動きができなくなりました。

写真はイメージです ©iStock.com

「しゃっくり男」の正体は

 すると男性は「ヒック、ヒック…ヒック……ヒック………ヒッ」と言って、首をガクリと横に向けました。それと同時に消えてしまいました。

 そこで気がついたのですが、あの男性の「ヒック、ヒック」という声は、しゃっくりではなく、呼吸をする音だったのではないでしょうか。

 実は以前このマンションは病院だったんです。だからあのしゃっくりだと思っていたのは、息を引き取る直前の息遣いだったと思うのです。

 私は寝室に入る事が出来ず、朝になるのを待って、三木住職に電話をしたんです。

* * *

 オーナー様の話を聞き終わると、新婚のご夫婦も納得された様子でした。どうやら霊的な事を信じないオーナー様は、地鎮祭などを怠っておられたようです。

 そして、この日、4人そろってお経を挙げました。

 別れ際、新婚ご夫婦の奥様が、こんな事を聞いてこられました。

「あの男性の方は、何故私の所に来られたんでしょうか」

「正直、私には分かりません。ですが、目に見えない物を信じる気持ちがおありだからでしょう。ただ確実に言えることは、その奥様のお陰で、あの男性は供養を受けることが出来ました。男性に代わってお礼を申し上げます。ありがとうございました」

 そう言って、私が頭を下げると、ご主人もオーナー様も、一緒に頭を下げてくださいました。

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