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「なぜそんなセコい発想になるんやろ」「見るべきは親の所得ではなく子ども自身」泉房穂明石市長が“所得制限”に断固反対するワケ《撤廃ムーブは日本に芽生えた“希望”》

「なぜそんなセコい発想になるんやろ」「見るべきは親の所得ではなく子ども自身」泉房穂明石市長が“所得制限”に断固反対するワケ《撤廃ムーブは日本に芽生えた“希望”》

泉房穂明石市長インタビュー#1

genre : ライフ, 社会

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見るべきは「親の所得」ではなく「子ども自身」

――1月に入って、東京都、福岡市、大阪市が相次いで子育て支援にかかる所得制限の撤廃を掲げました。明石市が取り組んできたことが、兵庫県だけでなく全国に広がりつつあります。

 大事なのは、「転入してきたら100万円」といった札束で頬を叩くようなバラマキ政策ではなく、市民に「安心」を提供すること。今の国民のキーワードは「不安」です。税金や社会保険料は上がる一方で、光熱費も高騰、円安に見舞われ、将来年金がどれだけもらえるかもわからない。そんな状況の中で国は子育て支援に所得制限を設け、「本当に困っている人しか助けない」という。

 国民はそんな国の政策から、こんな状況で「よう結婚するな」「よう子ども産むな」「大丈夫なん?」というメッセージを受け取ってしまっているんちゃうかな。

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明石市の子どもは無料で入れる市民プール。お金を使わずに楽しめる遊び場の増設にも力をいれている

――最近、子育てをする人に厳しい今の政治や社会を批判して「子育て罰」という言葉が使われるようになりました。自分たちの子育てが国に歓迎されていないと感じる人が多く、子どもを産むのを控える「産み控え」につながっているとの指摘もあります。

 国からのメッセージを「社会で子育てしましょう。安心して子どもを産んでください」に変えなあかん。明石市が子育て世帯への月々5000円の給付を始めた時、「たかだか5000円で何ができる」という声が上がりましたが、大切なのは金額でなく、「子育て世代を継続してサポートする」という姿勢なんです。

 所得制限は設けていません。これについてはいろいろな意見がありますが、私からしたらなぜそんなセコい発想になるんやろと思いますね。見るべきは親の所得ではなく子ども自身。給付の対象は親ではなく、「子ども自身」なんです。

 

日本に芽生えた“希望”「一気に変わる予感」

――SNSなどでは所得制限についての批判が大きいですが、国はなかなか所得制限撤廃へ舵をきろうとしませんでしたね。

 東京都が同じ政策を掲げたことを受けてか、ようやく政府も所得制限撤廃で調整を始めたようですね。この動きは日本の希望やね。これを機に、一気にオセロの盤面が黒から白に変わるように、「子どもに異次元に冷たい国」から脱却していくんじゃないかという予感もしています。

――明石市は10年連続人口増を達成していますが、果たして国がこれから少子化対策に舵を切って、V字回復が望めるのかどうか、疑問が残ります。

 誤解されることが多いのですが、私自身は人口増論者じゃありません。人口が増えれば、新たに保育園の待機児童問題や交通機関の混雑などの問題が出てくるし、市民の負担が増える場合もある。私が意識しているのは人口を増やすことではなく、いかに一人一人が暮らしやすいまちをつくるかということ。

 少子化に関しては、子どもを産む年齢層の人たちが減っている以上、人口減に向かうのは避けられないと思いますが、減るにしてもその程度は和らげることができるかもしれない。産みたいと思う人が安心して産むことができて、人口が減ってもみんながうまくやっていける社会を作るべきやと思います。