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「貧乏人をバカにしやがって!」「六法全書に赤ペン入れて直したろか!」怒れる弁護士時代の泉房穂市長が政界進出を決めた“ある大事件”とは

「貧乏人をバカにしやがって!」「六法全書に赤ペン入れて直したろか!」怒れる弁護士時代の泉房穂市長が政界進出を決めた“ある大事件”とは

『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』#1

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 岸田文雄首相が最重要項目として掲げた「異次元の少子化対策」。しかし具体的な政策はなかなか提示されず、子育て世代を中心に批判する声も多い。一方で、東京都、福岡市、大阪市が子育て支援にかかる所得制限の撤廃を掲げるなど、異次元の少子化対策は国に先んじて地方自治体から広がり始めている。

 こうした動きの“はじめの人”として注目を集めているのが明石市の泉房穂市長だ。

 “暴言”が取沙汰されて政治家引退を表明したが、その豪腕で明石市を改革してきたのもまた事実だ。所得制限なしであらゆる子育て支援策を実施。高齢者や障害者、LGBTQ+のための条例も整備している。結果、10年連続で人口増、出生率は2021年度に1.65(国は1.3)を達成した。

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 既得権益層からの猛烈な反発のなか、なぜこうした政策を実施したのか。

 泉市長は瀬戸内海に面した小さな漁師町に生まれ、「それなりに貧乏だった」。そして4つ下に障害を持った弟がいたことで、幼少の頃から「冷たい社会」の理不尽さを目の当たりにしてきたという。

 社会を変えるため、猛烈に勉強して東京大学に進むも、学友たちの多くは裕福な家庭に育った現状維持思想の持ち主ばかり。NHKに入局後も、社会問題を実際に解決していくことができない歯がゆさを抱えた。

 そこで出会ったのが、政治家になる前の石井紘基元衆議院議員(2002年に右翼団体幹部により殺害)。石井氏の選挙活動を手伝うなかで、石井氏から弁護士になるよう強く説得され、弁護士になる。

 その後、“ある大きな事件”から政界へ足を踏み入れることになるのだ。

 1月31日に上梓した『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』から一部を抜粋する。

(※抜粋にあたって一部編集しています)

 

冷たい条文に激怒「貧乏人をバカにしやがって!」

 20代半ばにして法律と向き合うことになりましたが、初めて六法全書を開いて、条文を読み始めたときのことは忘れられません。思わず口から文句が飛び出るほど、憤りを覚えました。

「誰や! こんな冷たい条文を書いたのは! 貧乏人をバカにしやがって!」

 条文をいくら読み進めても、障害者や犯罪被害者といった社会的弱者への思いやりがほとんど感じられなかったのです。

子どもたちと若かりし頃の泉市長(明石市役所提供)

 子どもの権利ですらどこにも書かれておらず、財産権ばかりが過度に保護されており、お金持ちにばかり有利なように書かれている。強盗の処罰は厳しいのに、強姦の処罰はあまりにも軽い。極めて不公平な内容が次々と目に飛び込んできました。

 理不尽な冷たい条文があたかもあたりまえのように存在し続けていることに、驚きを通り越して腹が立ってきました。にもかかわらず、司法試験の受験生らは必死にそれを丸暗記しようと励んでいる。そして、自分もその1人であることが情けなくて仕方ありませんでした。

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