岸田文雄首相が最重要項目として掲げた「異次元の少子化対策」。しかし具体的な政策はなかなか提示されず、子育て世代を中心に批判する声も多い。一方で、東京都、福岡市、大阪市が子育て支援にかかる所得制限の撤廃を掲げるなど、異次元の少子化対策は国に先んじて地方自治体から広がり始めている。

 こうした動きの“はじめの人”として注目を集めているのが明石市の泉房穂市長だ。

 泉市長は「火つけて捕まってこい」「選挙落としたる」といった暴言が取沙汰され、責任を取る形で任期の切れる今期限りで政界を引退することを表明している。しかしながら、その豪腕で明石市を改革してきたのもまた事実だ。

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 所得制限なしであらゆる子育て支援策を実施。高齢者や障害者、LGBTQ+のための条例も整備している。結果、10年連続で人口増、出生率は2021年度に1.65(国は1.3)を達成した。

 泉市長が1月31日に上梓した『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』で疑問を呈するのは、国が想定する “標準家庭”だ。

 社会保障の設計や税試算において使われる標準家庭は、「勤労する父親、心やさしい専業主婦の母親、健康に育つ2人の子の4人家族」。それは果たして、いまの日本で“標準”と言えるのだろうか。子育て、介護、DV、就労、家計など複数の問題を抱える家庭に、周囲の無理解に苦しむ性的マイノリティの家族――。

 泉市長が目指す「誰一人取り残さない政治」とは。本書から一部を抜粋する。

(※抜粋にあたって一部編集しています)

 

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霞ヶ関のエリートが考える“非現実的な政策”

「なんでこんなことができないのか」

「なんでいまだにこんなことを」

 お役所の内部を知れば知るほど、愕然とさせられてきました。国も地方もです。

 中央省庁にいたのは、受験競争を勝ち抜いてきたエリート層。狭い世界で生き残り、困っている市民の日常とはかけ離れていました。そうでなくても普段から現場とは縁遠く、関係者に「わかってない」と思わせてきたのが国や官僚です。霞ヶ関の机の上から、実態とはかけ離れた政策が出てくる背景が窺えます。

 支援を担当する部署ですら、困っている人を起点にした政策になっていない。実態を知らず、見えていない。当事者に寄り添っていないのです。

 国では社会保障の給付や負担、家計における税試算などに「標準家庭」を使っています。

 1970年代から日本の典型的な家族構成として、「勤労する父親、心やさしい専業主婦の母親、健康に育つ2人の子の4人家族」を想定し、今でも標準と称して使い続けています。

 そんなモデルは、実態に即してはいません。そもそも問題なく暮らす健康家族を前提にする考えがどうかしています。