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全国各地のライブ会場に出没、家の前まで付いてくる、彼女かのような手紙を郵便受けに…上田晋也が体感した“熱狂的お笑いファン”のリアル

『赤面 一生懸命だからこそ恥ずかしかった20代のこと』より #2

2023/12/03
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 来てくれること自体はもちろんありがたいのだが、芸人がイベントなどでやる、いわゆる“営業ネタ”というものは、どの芸人も30分ならコレとコレ、45分ならコレとコレとコレ、などお決まりのパターンがあり、同じネタを何度も観られるのはこっ恥ずかしいのだ。同じギャグを観られるのも恥ずかしいが、もっと恥ずかしいのは、ネタ振りの部分で、何も知らないかのように振る舞っている部分。たとえば、

有田「いやー、この前オフクロと電話しましてね。『テレビ観た』って言うから『面白かったよ』とか言ってくれるかと思ったら、『お前の顔はテレビに出る顔じゃない』と」

上田「はぁ? 我が親が?」

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有田「『お前なんかテレビで観たくないよ』と」

上田「そんなこと言うかね? ワッハッハッハッ」

有田「『って相方に言っとけ』って」

上田「俺のことかい!」

 のような、我々のお決まりのやり取りがあったが、オチの部分より、「はぁ? 我が親が?」と「そんなこと言うかね? ワッハッハッハッ」の、いつもやっているくせに、毎度知らないフリをするのを見られるのが異常に恥ずかしい。「逃走用のヘリを用意しろ!」と言って姿をくらましたくなるくらい恥ずかしい。

 そういった、何も知らないかのように振る舞う部分では、T美ちゃんのほうを見ることはできなかった。「あー、上田さん、またやってるー」と思われているような気がして。

 まあそれはともかく、T美ちゃんは飽きもせず、同じネタを何十回も観ているのに、あらゆるところに現れた。

まさか熊本にまで…

 そんなある時、熊本のイベントに呼ばれ、朝の飛行機で向かうことになった。マネージャーと有田と、羽田空港のチェックインカウンターで待ち合わせをし、手続きを済ませ、手荷物検査場へと向かっている時に、有田がふと思いついたように話しかけてきた。

「ひょっとしたらT美ちゃん、今日熊本にも来るんじゃない?」

「えっ、いや、さすがにそれはないでしょ! 今までは電車で来られる範囲だったからねー。飛行機の距離はさすがに来ないでしょ?」

「いやー、俺は来ると思うなー」

「いや絶対来ないよ」

 そんなやり取りをしながら、搭乗口に向かうと、なんと、搭乗口前の椅子にT美ちゃんが座っているではないか!(おいマジかよ! 飛行機の距離も来るのかよ?)呆れ果てていると、T美ちゃんは我々の存在を確認し、くノ一よろしくスッと身を隠しながら、搭乗口の中に入り、飛行機に乗り込んでいった。有田は「ねっ、言ったでしょ?」と、鬼の首めし取ったりの顔でニヤニヤしていた。