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「ウィキペディアがなかったら、ChatGPTは存在していなかった」NYタイムズの記者がチャットAIを信用していない“決定的理由”

『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』より #1

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 たしかに、暴走列車に乗っているのかもしれませんが、AIは改良を重ねて進化し続けるので、これからも様々な問題を解決してくれるだろう、という考えが彼らの根底にはあります。それゆえに多くの人は、今後のAIの進歩についても楽観視しているのです。

生成AIのことを、本当に信用できるか

――ChatGPTの登場以来、私たちはこの技術がいったいどんなものなのかを理解しようとしている段階だと思います。これまで実際に使ってみて、気づいたことはありますか。

 ここで申し上げた会話型の生成AIの先にあるのが、自然な会話を行えるAIです。これは、質問に対して信頼できる答えを流暢な言葉で出してくれます。しかし、その「正確さ」には当たり外れがあります。

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 典型的な例を挙げましょう。かつて私はChatGPTに対して、「人工知能に関する記事が『ニューヨーク・タイムズ』紙に最初に掲載されたのは、いつでどんな記事でしたか?」と簡単な質問をぶつけてみました。

 ChatGPTは自信満々に以下のように答えました。「1956年のダートマス大学の会議の記事が最初です」と。ちなみに、この記事は「いずれ機械が学ぶようになり、科学者が予測した問題を解決するようになるだろう」といった見出しがついていたと、ChatGPTは付け加えてくれました。

人工知能が抱える問題

 実は、私はこの会議のことを知っていました。数年前にソフトウェア・プログラミングの歴史を書いた際に、「人工知能」(AI)という言葉を作ったコンピュータ科学者のジョン・マッカーシーにインタビューする機会がありました。そのインタビューは、彼が亡くなる前に在籍していたスタンフォード大学で行われました。「人工知能とは、会議の目的が何かを説明するために、私が捻り出した言葉でね。1956年にダートマスで開催予定の会議の資金調達のために、ロックフェラー財団に助成金を申請するために必要だったんだ」と彼は言っていました。このことを踏まえると、ChatGPTが出した答えは、あながち的外れではありません。