2023年は、ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)が生活や仕事の場で急速に普及し、AIブームが起きた。今後、生成AIがさらに躍進し、産業界だけでなく、働き方や消費の行動に大きな変化が起こるという予測もある。こうした流れのなかで、2024年はどんな年になるだろうか?
ここでは、朝日新書の新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』より一部を抜粋。ニューヨーク・タイムズの記者、スティーブ・ロー氏が生成AIの可能性と今後の展開について語った内容を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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AIは、本当に人間の仕事を奪い得るのか?
――こういった新しいツールを、一般の人たちが普通に利用することについて、あなたはどのような意見をお持ちですか。人々の生活や教育、仕事の向上に役立つのでしょうか。
生成AIの出現により、私たちは数十年にわたり議論されてきたことに、立ち戻らざるを得なくなりました。その議論には、2つの立場があります。
1つは、「AIはインテリジェント・アシスタントとして役に立つ」という肯定的な立場。もう1つは、「自動化された技術は、人の仕事を奪ってしまう」という否定的な立場です。
人間の業務とは、技能の束なのです。AIによって技能のいくつかは自動化されました。なので、これまでの常識として、AIは仕事の効率化を図れるものだと考えられてきました。その一方で、「AIが仕事を破壊した」という研究の結果もいくつか発表されています。
生成AIの出現は、こうした問題をまた浮上させました。私としては「思いのほか早く議論の俎上に載ってきた」と思っています。
近い将来、カスタマーサービスにAIが進出するかも
今のところ、AIが得意とする文書作成は、かなり初歩的なレベルです。プレスリリースを書いたり、顧客に向けたダイレクトメールを作成したりするのがようやくできるようになってきた程度です。
なので、コンピュータ・プログラマーがウェブサイトを立ち上げる際のベースを作ることはできても、「医師や弁護士の仕事を代わりにこなす」といった高いレベルにまでは達していません。少なくとも、2023年の段階では。
1つ、これに関する例を挙げましょう。マッキンゼーやゴールドマン・サックスなどといったコンサルティング会社は、AIの生産性や雇用への影響を調査しています。その結果、何千万人という雇用に影響する可能性があると言っています。ただし、「影響」が何を意味しているのかは、はっきりわかりません。この手の調査では、「技能ごとに分類して予測する」という方法を取っているため、ほとんどの仕事で、様々な技能を組み合わせることが過小評価されている可能性もあります。