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さんまをバッサリやった恵美子の凄み

 そして私は思い出したのです。2016年6月に放送された『さんまのまんま』にゲストとして登場した上沼恵美子を。前回の共演は22年前、その長すぎる沈黙に「さんまと上沼恵美子は犬猿の仲」との噂まで立っていた中での出演でした。「電撃和解か」と書かれた『週刊文春』を片手に乗り込み「生放送だというので来ました」「そうじゃなければ都合よく編集されるかもしれないし」と先制パンチ。「いやいや姉さんは色気ありますよ、抱けと言われたら今晩でも抱きますよ」と、なんかあるとす〜ぐ容姿の話で笑い取りたがるさんまの十八番を、うっすら微笑みながら「ごめんね……」そして急に真顔で「私が嫌やわ」とバッサリ。十八番を9と9にバッサリ。ああ最高、最高だよ恵美子……。

 土曜日の半ドン終わるや否やジョイナーばりのダッシュで家に帰りテレビにかじりついて見た『バラエティ生活笑百科』。あの誰だかよく知らないけどキレッキレの女の人。自宅は大阪城で、淡路島所有してて、金閣寺買った時のポイントで家電全般揃えてる女の人。海原千里・万里のころの映像を今見てもそのスピードとテンポとワードセンスに「このとき10代……?」と唖然とする、そんな天才漫才師が、自分の才能に執着ないのかあっさり結婚して引退して、そして「未婚」「ブス」という女芸人の自虐ネタなんぞどこ吹く風で復帰して、夫に気を使い仕事をセーブするもでもどうしようもなくおもしろいから冠番組いくつも抱えちゃってすげえ視聴率叩き出して、夫に尽くし子ども巣立たせ更年期乗り越え経血出し切って、まさに上沼恵美子!! はあ息継ぎしよ。

姉とコンビを組んでいた海原千里・万里時代の上沼恵美子(右)

「おもしろい」という才能一つで

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 この一連の騒動と報道を読み聞きした(主に関東以北の)一般視聴者たちはおそらくこう思うでしょう。「なんだかよくわからん関西で権力のあるオバハンを怒らせてしまったんだな」と。上沼恵美子を「女帝」と崇めることで、かえって問題の中身をぼやかしている。だから悔しいんです。あのとき誰だか知らんけどめっちゃおもしろくてかっこいいキレッキレの主婦が見たくてジョイナーばりのダッシュで帰った小学生の私に申し訳ない。容姿とか年齢とか未婚だとか既婚だとか、女芸人がつけられるアヤを「おもしろい」という才能一つで乗り越えてきたんですよ上沼恵美子は。女帝だからではなく、漫才の才能があるからM-1の審査員席に座っていたんじゃないですか違いますか。