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「ドルガバ、Supremeを着ているのは誰か?」無視できない中国マネーとファッションブランドの理想と現実

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

「ハイブランド」と「民主主義」の相性は悪い

おぐら 選民意識といえば、今ちょうど、ハイクラスのファッションブランドが立ち並ぶ東京の港区青山で「南青山に児童相談所はいらない」と住民が反対運動しています。

速水 反対の理由が「青山のブランドイメージを下げる」だからね。

おぐら ただ思うのは、ファション業界やハイブランドだけでなく、どの業界でも、お金を落としてくれる購買層と、自分たちの理想とのギャップっていうのはありますよ。たとえばネット媒体でも、理想としては硬派な読みもの記事を充実させたいんだけど、それだけでは数字的に採算が取れなくて、確実に稼げる芸能ネタやエロ記事をやらざるを得なかったりとか。

 

速水 個別の媒体に限らず、出版社単位でも、会社の思想よりも売り上げを重視して出される本があって、その本の売り上げのおかげで、採算は取れないけど思いの込もった本が出せるという事実もある。

おぐら あとこれはよく言われている話ですが、80年代から90年代で物理的な“もの消費”は上限に達して、その後とくにネットが普及して以降は、目に見えないブランド価値やコミュニケーションがビジネスになっていると。

速水 うん。オンラインサロンなんかはその典型で、人間関係とか人との繋がりにお金を払うのが現代では常識。

おぐら もはや個人にまでイメージ戦略を求められるセルフブランディングの時代。

速水 インスタなんかアカウントの数だけブランドがあるみたいなもんだよ。

おぐら 着ているものはもちろん、SNS上の発言から交友関係までが個人の価値を左右するブランディングメッセージになるからこそ、写真をきれいに加工したり、つぶやきにも推敲を重ねるわけで。でもそれってやっぱり疲れますよね。

速水 ハイブランドもそうだけど、その他大勢との差別化を基本とする時点で、民主主義とは相性が悪いんだよね。

 

おぐら そんな時代背景のもと、ファッションの世界で革命を起こしたのがユニクロですよ。「服に興味がない人」に向けて作られたファッションブランドって、逆転の発想がすごい。

速水 結局、流行やデザインの良し悪しを見極めたい人よりも、服を選ぶのがめんどくさいっていう人のほうが大多数だから。

おぐら 一部でセルフブランディングが加速するのに対して、むしろ「目立ちたくない」「普通でいい」と考えている人もたくさんいるはずで。若い男子向けファッション誌でも「『無難』な服こそ、最高だ!」と宣言していたりします。

速水 じゃあ来年に向けて、この連載を続ける戦略としては、読むことを自慢したくなるようなブランド志向を目指すか、ネットの記事には興味がない層に読んでもらうユニクロ志向を目指すか、どっちにする?

おぐら ブランドイメージを確立するのも大変ですし、ユニクロもデザイン性は無難とはいえ高品質あっての人気ですし、どっちも難しいですね。

速水 じゃあもうこれまで通り、文春がスクープで稼いだお金でまかなってもらうしかないね。

おぐら そうしましょう。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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