がんでも「仕事をやめない」重要性
もう一つ、樹木さんから私たちが学ぶべきことがあると思います。それは、がんになってからも仕事をやめなかったことです。
がんと診断されると、手術や抗がん剤など大変な治療を受ける必要があり、長期の入院や療養を強いられることもあります。そのため、「治療に専念する」として仕事を長期に休んだり、やめてしまったりする人も少なくありません。
その結果、職場での立場を失う人や、収入が激減して経済的に苦境に陥る人もいます。なにより、生きがいや社会的立場をなくすことになり、本人がとてもつらい状況に追い込まれてしまいます。
しかし、近年ではがんで手術したとしても、小さな傷ですむ手術の技術や術後管理の方法が進歩し、1週間から10日間ほどで退院できるケースが増えました。また、つらい抗がん剤の副作用を軽減する支持療法も進歩し、入院せずに抗がん剤治療を外来通院で受ける人も増えてきました。
がんだからといって、「仕事をやめて治療に専念する」のが当然という時代ではなくなってきているのです。むしろ、それまで通りの仕事や家庭生活が続けられるよう、医療がサポートする流れが生まれています。
その証拠に今年3月には、主治医が産業医から助言を得て、がん患者の仕事と治療が両立できるよう治療計画の見直しや再検討を行った場合に診療報酬が加算される「療養・就労両立支援指導料」が新設されました。国もがん患者が仕事をやめてしまわないように、後押しをしているのです。
仕事という「生きがい」があった
がんが再発・転移をしたとしても、樹木さんのように5年、10年、さらにそれを超えて生きる人もいます。仕事という「生きがい」があったからこそ、樹木さんも「全身がん」であったにもかかわらず、長期間生き抜くことができたのではないかと思うのです。
もちろん、がんの性質は人によって異なり、樹木さんと同じような考え方や生き方をしたとしても、長期生存を果たせない人もいます。それに、樹木さんの真似をするのは、容易なことではありません。ですが、厳しい病に直面したときに、我々はどんなふうに受け止め、どんなふうに生きるべきか、樹木さんの姿からとても大切なことを学ばせていただきました。ご冥福をお祈りします。