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金正恩の妻と妹、そして……北朝鮮“3人の女”が日韓関係のカギを握る

2019/01/03

genre : ニュース, 国際

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「金与正の右腕」が日本との窓口?

 さらに、与正氏の右腕とされ、注目を浴びているのが、朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)・策略室長だ。物々しい肩書きだが、上流階級の奥様といった優雅な雰囲気をかもし出す女性である。北朝鮮の最高学府・金日成総合大学出身とされるエリート官僚でもある。

 正恩氏の親書を持参して、18年5月末に訪米した金英哲党副委員長(統一戦線部長)に同行し、ポンペオ米国務長官らと会って、一躍注目を浴びた。この年の3月に北京で行われた中朝首脳会談、4月の板門店での南北首脳会談にも随行メンバーとして加わっていた。

 さらに金聖恵氏は、日本側とベトナムなどで秘密裏に接触していると報道されている。このため平壌で行われた南北の実務会談の合間に、韓国側の出席者が聖恵氏に「対日関係も担当していると報道されていますね」とそれとなく聞いてみたという。

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 聖恵氏は、「知りませんね、誤報じゃないですか」と軽くかわしたものの、「全面否定しないところをみると、日本との窓口になっているのは間違いない」と、韓国側は受け取ったという。

 南北関係だけでなく、対日関係の窓口となっており、キーパーソンであることは間違いない。

金聖恵・党統一戦線部策略室長 ©AFLO

日本を対話の輪にいれたい韓国の事情

 北朝鮮側の、日本への見方は厳しい。日本から訪朝した人たちに対し、北朝鮮の関係者は「日本は対話すると言いながら、厳しい経済制裁を続けており、敵対的だ」と話しているという。

 安倍晋三首相についても、韓国側との会談で、厳しい評価を示すことが少なくない。

 ただ韓国側は、日本を何とか対話の輪に入れたい事情がある。トランプ米大統領は、2019年初頭に、正恩氏との首脳会談を行う意向を示しているが、非核化が進展しない限り、北朝鮮への経済制裁は解除しないとしている。時に宥和的は発言もあるが、突然強硬になるなど、発言がぶれる。

 今は米国が中国との貿易戦争に気を取られており、北朝鮮との対話に関心があるのか、今ひとつはっきりしないのも韓国にとっては不安のタネだ。

 北朝鮮には後ろ盾の「中国」がおり、大きな影響力を持っている。しかし、北朝鮮は中国からの干渉を嫌っており、韓国としても頼りにしにくい事情がある。

 そんな中、日朝が拉致問題を含め、本格的に対話を始めれば、「韓国だけが、北朝鮮に前のめりになっている」という批判も和らげられると考えているのだ。

金正恩・党委員長と公の場に出ることが増えた李雪主夫人 ©AFLO

 そのため、韓国は、正恩氏と安倍首相の首脳会談実現に力を尽くすだろう。前出の高官も「北朝鮮との正式な会談の中では、拉致問題は取り上げにくいが、その後の宴会などでは、日本とも対話してみてはどうですかと、何回も正恩氏に声をかけている」と明かす。

 正恩氏も、「対話の用意はある」などと答えているそうだ。どこまで本気かは分からないが、北朝鮮側も、孤立を避けたい韓国側の希望を感じ取っているに違いない。19年は日朝首脳会談が焦点になる可能性は、大いにある。