絶妙な3人の「被写体」
もう一人は、職歴2年目の24歳男性。制作会社から派遣されて東海テレビ報道部にきたが、口下手でミスを連発し、先輩たちから叱責される日々をカメラは追う。
3人目は記者歴25年の外部スタッフである契約社員。「権力の監視」がもっとも重要なジャーリストの役目であると考え、自分自身の思いと報道部の姿勢とのギャップに悩みながら、日々仕事をしている。
私はまずこの3人の被写体の選び方が絶妙だと思った。特にアナウンサーと派遣社員には、取材期間中に大きな転機が訪れ、そこがドラマになっている。土方ディレクターは、最初からそのことを見越して取材を始めたわけではないだろうが、キャスターは視聴率が振るわず1年で降板させられ、契約社員も同様に1年で契約を打ち切られる。その入り口と出口の日に、両方ともカメラが回っているのだ。こうしたシーンが「撮れているか撮れていないか」で、ドキュメンタリーの見応えは大きく変わる。番組の前半で「おまえを売り出す」と言った報道部長がその同じ口で、1年後にキャスターに降板を告げるのだ。キャスターは自分の殻をやぶれずに悩みながらも奮闘していたのだが、降板の理由は「テレビの視聴者層が高齢化しているので、キャスターも年配の男性に」というものだった。
上司からの「成立させろ」という要求
派遣社員は、「働き方改革」の名のもとにいわゆる36(サブロク)協定の遵守が叫ばれる中、人手不足に陥ったテレビ局が人材をまかなう為に雇われる。だが会社は、その派遣社員が「つかえない」と判断すると、契約を打ち切るという手段をいとわない。若い派遣社員は、自分が切られるかもしれないことに怯えながら仕事をしていた。そんな中、被写体にモザイクをすることを約束していたのに、モザイクなしで放送しようとして、そのことが上司にバレ、企画がボツになる。
その背後には、業界用語の「成立する」という言葉がある。テレビで放送される面白いVTRとしての基準を満たしているのが「成立する」だ。だが、上司からの「成立させろ」という要求は、時にやらせや捏造などの問題を生み、土方ディレクターがこの派遣社員を業界の先輩としてたしなめるシーンも出てくる。「昔“あるある大事典”という番組で起きたことを知らないのか? 下手をしたら番組が終わってしまうんだぞ」と。
この二人の降板と契約打ち切りの現実から、いまのテレビを取り巻く状況が見えてくる。視聴者の高齢化や視聴率低下の問題、そしてやらせやな捏造が起きる構造や、派遣切りをニュースで批判しながらも、自らも派遣切りをするテレビ局の自己矛盾の様子が見て取れる。