他の追随を許さないドキュメンタリーの話題作、衝撃作を発表し続ける東海テレビ。そのチーム作り、映画化する理由、ナレーションへのこだわりなど「名作の秘密」を、現場を統括する阿武野勝彦プロデューサーに伺いました。(全2回の2回目/#1より続く)

阿武野勝彦プロデューサー

ドキュメンタリー映画では異例の観客動員25万人超え

――東海テレビドキュメンタリーのユニークさは映画化によって、全国的に知られることになりました。話題作には『ヤクザと憲法』などのほか、愛知県の高蔵寺ニュータウンに住む90歳の夫と87歳の妻、津端夫妻の日常を追った最新作『人生フルーツ』があります。ヒットは目論んでいたんですか?

ADVERTISEMENT

阿武野 いえいえ、ドキュメンタリー映画でお金儲けを考えたことは一度もありません。会社に出した予算は収支すれすれゼロといったところ。正直、予想外のヒットです。『人生フルーツ』は2017年公開ですが、今も上映中で、おかげさまでロングランになっていて、25万人の観客動員を超えました。

――何がヒットの原因だと思いますか?

阿武野 リピーターが多いんです、お客さんに。

『人生フルーツ』 ©︎東海テレビ

――老夫婦の日常を描く静かなドキュメンタリー映画ですけど、リピーターが多いんですか。

阿武野 不思議に思っていたんですけど、人に言われて一番しっくりきた感想に「気持ちのいいお説教を、みんなで聞きたいんだよ」っていうものがありましてね。今の時代、パワハラになりかねないから下手に説教できないでしょう。だから説教が貴重なものになってきたんでしょうか(笑)。それで、この作品がそっと差し出しているメッセージというか、まさに「気持ちのいい人生のお説教」的なものが受け入れられているんだと思っています。一度観た人が今度は友達を連れてお説教を聞きに来る。それが今度はグループになり、どんどん芋づる式に観客が増えていく。年代も一時期は高齢者層がメインでしたけど、若年層に裾野が広がっていきました。

『ヤクザと憲法』は完全に一人で見る映画のようで

――ちなみに『ヤクザと憲法』の成績はどうだったんですか?

阿武野 こちらは観客動員が約4万人。いや、これだってすごい人数で、ドキュメンタリー映画は1万人入ればヒットといわれる世界なんです。ただ、『人生フルーツ』と違って面白いのは観客の広がり方です。『ヤクザと憲法』は完全に一人で見る映画のようで、『人生フルーツ』みたいに誰かと観る映画じゃないらしい(笑)。観た人が「ちょっといけねぇモノ観ちゃってさ」って感想を誰かに話して、今度はその人が一人で映画館にやってくる。

『ヤクザと憲法』 ©︎東海テレビ