どうして「映画化」するのか?
――『人生フルーツ』では、何かプロモーションの作戦があったんですか?
阿武野 ナレーションを務めてくださった樹木希林さんには広報も兼ねた番組にずいぶん出ていただきましたが、それ以外は特にしていないんです。ですから、大きかったのは自然発生的なSNS発の口コミでしょうね。俳優の瑛太さんがツイートし、若年層に火がついた。それから竹内まりやさんがラジオで話してくれたり、古舘伊知郎さんがテレビで語ってくれたり、こちらが予期せぬ有名人からの声があったことで広がりました。
――東海テレビのドキュメンタリー映画はこれまでに10作ありますが、テレビで放送したものを映画版に再編集し、映画化し続けるのはどうしてなんでしょうか。
阿武野 私たちは地方の民放局ですから視聴者が限られています。一方で当然のことながら、制作者としては自分たちの作品をより多くの人に観ていただきたい。しかしそこには、ドキュメンタリーは視聴率が取りにくい、スポンサーがつきにくい、問題が起こりやすい、だから全国ネットにしにくいというテレビ局の企業論理が存在します。であるならば、単館上映でもいいから全国に届けるべく、映画展開をしてみようと考えたわけです。
――ドキュメンタリー映画を成功させるのは難しいとのことでしたが、とはいえ映画事業としてペイすることは目標にしているのですか?
阿武野 実は、目標にしてるんです。続けるためには、ペイしないと。とはいえ、現実的にはマイナス予算で会社には提出しなければならないこともあります。それでも会社は「いいよ」って。懐が潤沢だからというわけではなくて、やっぱりドキュメンタリーを大事にしてくれているからだと感じています。100万円くらいマイナスになっても、東海テレビのドキュメンタリーが全国に知られるようになるほうが大事だと考えてくれているようです。
どうして「動画配信」しないのか?
――9月に放送された『さよならテレビ』はこれだけ話題になって、映画化希望の声はもちろん、ネット配信を希望する声もあるようです。この先、ドキュメンタリー番組の動画配信は考えていませんか?
阿武野 そういう声があることは知っています。ただ、なぜ映画館で上映することにこだわるかというと、見ず知らずの他者を感じながら、同じ場所で私たちの映画を観てほしいという思いがあるからなんです。ネットだと好きな時に、好きな場所で、一人で観れちゃうでしょう。これじゃ、つまらない。
――誰かと観てほしいというのは、どうしてなんですか。
阿武野 家族でも赤の他人でもいいから、同じ場所でさまざまな感情が交錯するのを共有してほしいんです。それは突き詰めていうと、映画を観た人に再びテレビの前に戻ってきてほしいからです。テレビって、元々はお茶の間で家族で観るものだったでしょう? ドラマを観てたら突然ラブシーンになって、お父さんが変なこと言ってごまかして、お母さんが恥ずかしくなって「お茶」って台所に行っちゃって、お兄ちゃんが茶化すみたいな。あのテレビを共有している感じ、あのテレビが色んなものを映し出すワクワク感、テレビを挟んで他者を感じる世界がこれからも存在し続けてほしいんです。