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「わかりやすい第一主義」には抵抗していたい

――ドキュメンタリーを作る上で、阿武野さんはどんなジャーナリズム感覚をお持ちなんでしょうか。いわゆる正義というものを、どういうふうに捉えてらっしゃるのかなと気になっているのですが。

阿武野 私は感情的な人間なんですよ。叙情派ですし(笑)。だからこれが正義なんです、これが正しいジャーナリズムなんですとは言えない。むしろ、これは正義だと思った時ほど、自分を疑わなきゃいけないと考えてます。いつも、疑う自分が出てくるんですよ。○に見えているのに、いや△に見えている人もいるって必ず思ってしまう。だから思考がいつも真っ直ぐに進まない。

 

――これが正解だ、みたいなことはしないというか。

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阿武野 そう、正解探しをしないです。だから、阿武野の作ったものはわかりにくいとか、言いたいことがわからないと言われる。ナレーションもそうなんですよ。説明すればするほど親切だしわかりやすい。けど、それは「過剰への誘惑」だと思っていて、なるべくそういう「わかりやすい第一主義」には抵抗していたい。ある種の不親切さがあるくらいの方が、観る人は想像力を伸ばせるし、集中してくれると思っています。

みんなが神妙な感じになると、妙に笑えてくる

――常に自分を疑ったり、正解探しをしない考えかたは、昔からなんですか?

阿武野 どうですかねぇ。お寺の息子だってことは関係しているかな。昔から人が悲しんでいる場面に遭遇することが多かったからか、なぜかそういう真面目なところにいると自分を何処に置いたらよいか分からなくなっちゃう。学校の全校集会で先生に説教されて、みんなが神妙な感じになると、妙に笑えてくる。なんか、自分の中に違う自分がいるんですよ、いつも。

 

――ドキュメンタリー作りをされる仲間のみなさんにもそういうところはありますか?

阿武野 どうでしょう……。組織の中で傷ついた経験を持ったスタッフは、それだけ人の痛みもわかっていますよね。それに安全圏から何かを撮ろうとか、取材しようとか思っていない。退路を断って仕事をしているから、それだけ大きく飛躍する仕事をしてくれていると思います。最近はドキュメンタリーに挑戦したいと手を上げてくれる若手も徐々に増えていて、東海テレビのドキュメンタリーは途切れずに続いてほしいですね。

――阿武野さんもディレクターとしてまた、現場に戻られたいのではないですか。

阿武野 やりたいテーマはありますけど、取材も下手ですし、自信がないのでまだ言えません(笑)。今はプロデューサーとして、ドキュメンタリーを思いっきり作っていける環境を整えること。それが私の仕事だと思っています。

 

写真=平松市聖/文藝春秋

あぶの・かつひこ/1959年、静岡県伊東市生まれ。同志社大学文学部卒業後、81年東海テレビ入社。アナウンサー、ディレクター、岐阜駐在記者、営業局業務部長などを経て報道局プロデューサー。2019年2月2日に11作目の東海テレビドキュメンタリー映画となる『眠る村』が東京・ポレポレ東中野で公開される。