オウム武装化の新事実
テープの分析をさらに進めると、これまでの“定説”を覆すような会話も録音されていた。オウムが本格的に武装化に突き進み始めたのは90年の衆院選の後だとされてきた。ところが、麻原は衆院選よりも前にすでに社会の破壊を企図し、武装化を進めようとしていたことが分かったのだ。
1988年11月、麻原と、教団最高幹部の上祐史浩、そして当時出家したばかりでのちに“厚生大臣”としてサリンの製造を行う遠藤誠一(死刑確定)とのやりとりである。
【麻原:もし、政治というものが一切宗教を禁止して私たちに従えと、力で、どうするか。
遠藤:我々がですか?
麻原:お前が持ってる知識を、その細菌兵器を作って、働けと。
遠藤:国に対する帰依心がないから、僕は。多分拒否しますね。
麻原:殺されるとしたらどうするか。
遠藤:いやー、明確な答えはないですね、なんか。僕の場合だったらそのまま流されてしまうかもしれません。
麻原:マイトレーヤ(上祐のホーリーネーム)どうだ。お前は工学やってるから、工学系の分野で例えばマイトレーヤを徴兵制でとって、従わせると。
上祐:その前に逃げたいですね。永住権をとって。
麻原:永住権をとってさよならというわけか。三つあるよな。一つはそういう圧力に対して戦うと、もう一つは逃げる、もう一つは従うと。遠藤どうだこの三つの中で。
遠藤:僕の場合はそうですね。逃げるという道があったら逃げるかもしれませんね(笑)。
麻原:第一は逃げるか。第二は?
遠藤:そうですね、そういう反抗というのは僕は余り好きじゃないですから、仕方がなく従うという道をとるかもしれませんね。
麻原:そうか、従うか。
遠藤:はい。日本としてはそういう風な方向になりつつあるんですか?
麻原:なる。間違いなくなる。そしたら警察が何人か来るよね。警察を壊しちゃえばいい。つまり、警察ごと壊せばいい。
遠藤:でも簡単にはできませんよね。例えば3人の警察官が死んだと、そしたらもっと多くの……。
麻原:そうじゃないよ。その3人の警察だけじゃなくてその本署ごと消しちゃえばいいんだから。
遠藤:はい?
麻原:本署ごと。
遠藤:本署ごと消しちゃう?
麻原:ポアしちゃえばいいんだよ】
麻原は、本来は魂を高い次元へと移すことを指す宗教用語「ポア」を、殺人を正当化する言葉にすり替えて使っていた。この会話を分析すると、引き気味の幹部たちに対して、麻原は一貫して議論の方向を武装化、暴力による社会の破壊に向けようと誘導していることが分かる。
88年1月、教団発足間もない時期のテープにも麻原の「破壊願望」が刻まれていた。当時、表向きの説法では、「核戦争を回避して世界を救済するためには、隣人への『愛』こそが必要である」と説いていた麻原。テープには、表向きの説法が終わったあと、ごく一部の側近たちと交わした内部の会話が偶然収録されていた。
【幹部:今生で救済の成功って言うのは核戦争の回避なんですか。
麻原:違う。今生で救済の成功は核戦争を起こさせないことではない。変なこというぞ、資本主義と社会主義を潰して宗教的な国を作ることだ。本当の意味で。この世をもう一回清算すべきだ。
幹部:(核戦争が)起きた時点でやっぱり今のオウムのスタッフはみんな一度死にます?
麻原:ほとんど死なないと思うね。私はオウム以外は生き残れないからと考えているから】
700本の極秘テープからは、麻原が言葉巧みにエリートたちを破壊活動や殺人へと駆り立てる様子が浮かび上がってきたのだった。