胃や大腸、あるいは心臓や肺など、形や場所をすぐに思い浮かべられる臓器は、そこに起き得る病気の予防にも意識が向きやすい。

 しかし、名前や存在は知っていても、ふだんあまり意識することのない臓器に対しては、付き合い方というか距離の取り方が難しい。

「膵臓(すいぞう)」という臓器のことを、どれだけ知っているだろう。場所や形はもちろんだが、いきなり「漢字で書け」といわれて、正しく書ける人も意外に少ないのではないだろうか。

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まずは、膵臓という臓器についてのおさらいから

 今回はそんな膵臓に起きる代表的な病気「急性膵炎」について考える。

 食の欧米化を背景に、患者数が10年で1.8倍も増えたという報告もあるこの病気。重症化すると命を奪われることもある。

 お酒や脂っこいものが好きな人、そしてストレスを抱えている人は、ぜひ最後までお読みください。

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 まずは、膵臓という臓器についてのおさらいから。

 場所はみぞおちのあたりの奥のほう(背中側)で、胃に接し、十二指腸のヘアピンカーブに挟まれるような形で横たわっているのが膵臓だ。

 左右の長さは10~15cm、厚さはおよそ2cm、重さはおよそ100gといったところ。向かって左側(当人から見て右側)を「膵頭部」といって実際にここが大きく、真ん中あたりの「膵体部」を経て、反対側の「膵尾部」は細くなる。オタマジャクシにも似ているし、カズノコのようにも見える。

食べたものを消化する酵素を含む「膵液」を作る

 膵臓の役割は、大きく二つある。

 一つは内分泌機能とよばれるもので、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを出して血糖値を安定させる働きだ。したがって、糖尿病の人はそうでない人よりも膵臓についてよく知っていることが多い。

 もう一つの働きは外分泌機能。食べたものを消化する酵素を含む「膵液」を作って、十二指腸に流し込むのも膵臓の役割だ。急性膵炎が起きるのは、この外分泌機能でのトラブルだ。

「膵臓で作られた膵液は、主膵管という管を流れ、肝臓と胆のうから来る総胆管に合流して十二指腸に出て、ここで食べ物を消化します。この時、十二指腸乳頭部(十二指腸にある総胆管の開口部)が詰まって膵液が滞留すると、膵液が膵臓自身を溶かし始めて炎症を起こす、これが急性膵炎です。これだけでも激痛をともないますが、膵液が総胆管の外に漏れると、臓器の周囲の粘膜を溶かすので被害は甚大です。“おなかのやけど”と呼ばれる一大事で、腹膜炎や多臓器不全を起こして命を落とす危険性もある」

 と語るのは、東京医科大学病院消化器内科主任教授の糸井隆夫医師。