頂点をメジャーを目指す選手も
とは言え、野球を志したからには、頂点のメジャーを目指すべきだと考える選手もいる。
ジョシュ・トルスは今年30歳になる。ABLでは発足当初の2010-11年シーズンからプレーしているものの、公称170センチという投手としては致命的ともとられる上背のなさのためか、なかなかチャンスすらもらえず、2014年、月給2万円という小遣い銭にもならないギャラしかくれないペコスリーグという底辺独立リーグでプレーするためアメリカに渡った。ここで登板の機会を得た彼は、5勝無敗という成績を収めると、その後のABLでも、短いシーズンにもかかわらず9勝2敗と超人的な活躍を見せ、一躍オーストラリア球界を代表する左腕にのし上がった。
彼の存在を僕が知ったのは、前回のWBCの時だった。ABL関係者から「いいピッチャーがいるんだ。ちっちゃいけど、150キロ近く放るんだ」と聞かされたのだ。残念ながら、WBC本番では登板機会がなく、大阪でのテストマッチで投げただけ、それも、寒さのせいか球速も140キロがせいぜいと前評判ほどではなかったが、かつてのオリックスの細腕エース、星野伸之を思わせる、打者から球の出所が分かりにくいフォームと、大きく縦に落ちるカーブは、日本でも十分にやっていけるのではないかと思わせた。
残念ながら、「ショーケース」となる日本戦での登板がなかったこともあって、プロ球団にピックアップされることはなかったが、大会のひと月後には、新潟アルビレックスの先発投手として独立リーグの舞台に立ち、ノーヒットノーランを達成するなど、シーズン前半にはまさに無双状態だった。プロ球団も興味を示すも、後半に調子を崩したこともあって獲得には至らなかったが、人生塞翁が馬、シーズンが終わるとフィリーズと契約を結び、昨年はプロスペクトの集まる2Aでシーズンの大半を過ごした。
ロースターに彼の名を見かけなかったので、球場でその姿を見て驚いた。声をかけると、この冬のシーズンは、ベネズエラでプレーしていて、年明けを母国で迎えるためちょうど戻ってきたところだと言う。
「すごいところだったよ。なにしろブルペンに自動小銃を持った護衛がいるんだから」と笑いながら、リリーフ投手として17試合に登板し、勝ち星も挙げた初めてのラテンアメリカでの生活を彼は振り返ってくれた。その舌の根も乾かぬうちに、その夜もリリーフ登板した彼は涼しげな表情で、凱旋登板でセーブを挙げていた。
オージーたちを取り巻く野球環境は決して恵まれてはいない。彼らのほとんどは、力量があっても、同等の実力をもつ日本のプロ野球選手のような大金を手にすることもない。それでも、彼らは野球を存分に楽しんでいる。そんな彼らの姿を見たくて僕は、オーストラリアに時々足を運んでいる。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ウィンターリーグ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/10390 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。