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なぜ「不倫たたき」は過熱するのか それでもなぜ不倫はなくならないのか

「正義の行動」には快楽がともないます

2019/03/01
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「正義の行動」には快楽がともなう

 フリーライダーを検出するためのモジュールとしては、「妬み」の感情が用いられます。「あいつはズルしていい思いをしている」という感情です。現代社会では、週刊誌やネットメディアが非常に優秀な「フリーライダー検出ツール」として機能してきたと言えるでしょう。

 不倫をする男女は、まさにこの標的となります。社会的な禁忌を破って性的快楽など「おいしいところ」だけを享受しているヤツはケシカラン、と。それゆえ、不倫カップルに激しい制裁を加えることが共同体を守るための「正義の行動」だと信じて、人々は徹底的に叩きのめそうとするのです。

 また、この「正義の行動」には快楽がともなうという仕組みも、私たちの脳には備わっています。不倫が発覚するやいなや、人々が狂喜乱舞して“バッシング祭り”に群がるのは、「道徳的ではないから」という観念的な理由からではなく、もっとドライで冷厳な生物学的メカニズムに突き動かされているのです。

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大災害と不倫叩きの不思議な関係

 ではなぜ、とりわけ近年、不倫バッシングが目立ってきたのでしょうか?

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 その一因として、続発する大災害があるのではないかとする見方もあります。共同体が危機に瀕すると、私たちの脳の中では「オキシトシン」という脳内物質への感受性が高まります。オキシトシンは不安を減らし、リラックスさせる効果を持つとともに、恋人や家族など近しい人々への愛着を増し、集団を一致団結させようとする働きがあります。苦境を乗り越えて生き延びるには、一人よりも集団で立ち向かう方が有利だからです。

 またオキシトシンには「内集団バイアス」を高める効果があります。内集団バイアスとは、「自分が所属している集団は、外部の集団に比べて優れている」と思い込んでしまう認知のゆがみです。