“裏切り者”を血祭りにあげ結束を強める
繰り返しになりますがオキシトシンへの感受性が高まると、共同体内のメンバーは結束を強くします。そして、外の敵を攻撃し、あるいは共同体内の“裏切り者”を血祭りにあげることによって、ますます結束を強めようとします。
大災害などで共同体の結束が強まる現象は人類社会で普遍的にみられ、それ自体にはむしろプラスの側面があります。ただ、マイナスの側面にも目を向けておかないと、ときには悲劇を招きます。
しばしば、独裁者が政治的な危機に瀕すると、外国への敵愾心を煽ったり、内部の造反分子を粛清したりします。これは体制維持のため、本能的に群衆のオキシトシンへの感受性を高めるよう演出しているのだと考えられます。そこまで極端ではなくとも、不倫バッシングの暴走は、あまり健全とはいえません。
それでも不倫はなくならない理由
しかし、これほど失うものが大きいことがわかっているはずなのに、不倫は一向に減る気配がありません。
結論から言うと、今後の人類社会において、不倫がなくなることはおそらくありえないだろうと考えられます。なぜなら、人類の脳の仕組みと遺伝子は、「一夫一婦制」には向いていないからです。
近年、脳科学の劇的な進歩によって、性行動に大きな影響を与える遺伝子や脳内物質の存在も明らかになってきました。また、その人が持つ遺伝子のうち、たった1つの塩基配列の違いによって、性的振る舞いが一夫一婦の「貞淑型」から「不倫型」になることすらあるのです。
こうした研究成果によってわかってきたことは、「人類の脳はあまり一夫一婦制には向いていない」ということです。そもそも哺乳類の世界では、一夫一婦型は少数派です。
人類の歴史を見ても、一夫一婦制が法律や道徳としてはともかく、実態として厳格に守られてきたことは、ほとんどないと言っていいでしょう。そればかりか、一夫多妻や乱婚を許容してきた社会集団のほうが、むしろ人口の維持には有利な側面もあったのです。
私たちは科学的なファクトの前では謙虚であるべきではないでしょうか。
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