ちょっと待て! 異を唱えたいことがある。
1月20日のスポーツ紙で、ソフトバンクの松本裕樹投手がサイドスローに転向したとの趣旨で報じられた件についてだ。
賛否両論が飛び交った。松本はドラフト1位で入団して今季5年目を迎えるが、昨季1勝など通算でも3勝(6敗)しか挙げておらず、期待に応えられているとは言い難い。背水のシーズンに臨むにあたり新挑戦を前向きにとらえる声も聞かれた。だが一方で、変則投法など何事か、といった意見も耳に入ってきた。親交の深い野球ライターからも「怒りのツイートをしようかと思った」と連絡が来た。
アレルギー反応を示した方々は、松本のかつての姿をよくご存知なのだろう。盛岡大付属高校時代は150キロ近いストレートで打者を押し込んでいた。しかし、3年夏の県大会中に右肘を故障した。それでも甲子園に出場して優勝候補筆頭とされていた東海大相模高校を相手に3失点完投勝利で撃破。直球は全く走らず剛腕ぶりは見る影もなかったが、変化球を巧みに使いこなしてコントロールも抜群というピッチングに、ネット裏のプロ野球スカウトたちも「野球センスがとにかく高い」と唸ったという。ホークスの当時の球団幹部に聞いた話では、かなり早い段階からドラフト1位指名することを決めており、結果一本釣りに成功したのだった。
背番号66は、かつての大エース斉藤和巳を受け継いだもの。巧みな投球術はプロの世界でも十分通用するレベルで、球団スコアラーも「コーナーの出し入れに関しては、チームの中でもかなり上位」と舌を巻くほどだ。
だが、現在に至るまで、かの剛速球を取り戻すことは出来ていない。松本は、それがもどかしくて仕方なかった。
「どうしたらフォームが良くなるのか」
試行錯誤を繰り返したが、上手くいかない。肘の不安からか、前腕が全くしならずに、まるでダーツを投げるような使い方しかできなくなっていた。
そして、巡り巡って行き着いた場所。それが「鴻江スポーツアカデミー」だった。
『うで体』か『あし体』か
同代表の鴻江寿治トレーナーが1月に主宰するトレーニング合宿に、チームの先輩である千賀滉大がまだ背番号128だったプロ1年目オフから毎年欠かさず顔を出し、2年前からは石川柊太も参加するようになった(今年はリハビリのため急きょ不参加……)。千賀の大出世は言わずもがな。さらに石川も入団3年目までは1軍登板なしだったのが、参加以降は8勝、13勝と驚きの飛躍を遂げたのである。
今年1月17日~19日、わずか3日間ではあったが、松本は「鴻江合宿」に参加する機会を得たのだった。
鴻江氏は昨年「あなたは、うで体? あし体? ~3秒で体がわかる、人生が変わる」を上梓したように、人間の体は『うで体(猫背タイプ)』と『あし体(反り腰タイプ)』と大きく2つに分けられるとの理論を提唱している。
「身長や体重といった体型、さらには年齢、男女、利き腕、血液型など人間の体は千差万別です。しかし、私がスポーツトレーナーとして数多くのアスリートを見てきた中で、『うで体』『あし体』の2種類を基準に判別し、タイプごとに合った体の使い方をすることが成功を導くのだと分かったのです」(鴻江氏)
その2種類を生み出すのが骨盤の形だ。『うで体』は右の腰がかぶって(通常よりも前に出ている)いて、左の腰が開いた(通常よりも後ろに下がっている)状態を指す。
『あし体』はその逆で、左の腰がかぶって(通常よりも前に出ている)いて、右の腰が開いた(通常よりも後ろに下がっている)状態だ。
おそらく初見の読者の方は「??」だろうが、これによって『うで体』タイプは上半身始動タイプ、『あし体』は下半身始動タイプに分けることが出来る。