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石川さゆり61歳に。「津軽海峡・冬景色」「天城越え」だけじゃない“意外な魅力”

「天城越え」は石川のイメージを壊す曲だった

2019/01/30

genre : エンタメ, 音楽

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「天城越え」は石川のイメージを壊す曲だった

 石川がデビューするきっかけとなった「ちびっ子歌謡大会」で歌ったのは、祖母に教えてもらった懐メロ「船頭小唄」だった。このとき審査委員長だった作曲家の猪俣公章からは、「ジーパンはいて帽子かぶって『船頭小唄』を歌うなんて、ミスマッチすぎて面白かった」とあとで言われたという(※1)。

「ミスマッチ」とは、現在にいたるまで彼女を貫くキーワードかもしれない。90年代初めには、ポップス歌手の杉真理(まさみち)の作曲により、SAYURI名義でサントリーのCMで歌った「ウイスキーが、お好きでしょ」が話題を呼び、のちにシングルとしてリリースもされた。「津軽海峡・冬景色」とともに現在も紅白歌合戦をはじめテレビで披露することの多い「天城越え」も、家庭も仕事も順調だった80年代半ば、作詞家の吉岡治が石川のイメージを壊そうとして提供したものだ。彼女もこの挑戦を果敢に受けて立った。そのジャケットの写真も着物の襟を崩し、妖艶な視線を送るという姿で、夫を怒らせたという(※2)。それでも彼女はその後も変化を恐れず、さまざまなジャンルの楽曲にチャレンジし続けている。これについて本人はこう語る。

「さゆりの歌い方は“ど演歌”じゃないでしょう」

紅組トリをこれまでに9度つとめている ©文藝春秋

《私の歌を演歌と言っていただいて否定はしないけど、私のなかにはポップスとか、演歌とかというジャンル分けはないんです。これからも素敵な歌、カッコいい歌、気持ちがいい歌を歌っていきたいし、ジャンルに関係なく『石川さゆりの歌が好き』と言ってもらえることが一番嬉しいことですからね》(※3)

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 恩師というべき吉岡治も、《並の演歌歌手は演歌しか歌えないけど、さゆりは違う。彼女は、あらゆるジャンルに自分の歌を広げていける人。透明感のある声だからポップスもいけるし、歌い方もいわゆる“ど演歌”じゃないでしょう。だから、作詞家としても面白い。演歌一色の人と違い、どんな冒険もできる。演歌の枠を越えた歌詞を書いても、彼女なら全然違和感ないからね》と、彼女の懐の深さを高く評価していた(※2)。