大相撲の横綱・稀勢の里が1月16日に現役を引退した。そのニュースは日本中を駆け巡り、多くのファンを悲しませた。千葉ロッテマリーンズの選手で、この一報に誰よりも心を痛めたのは茨城県内の小、中学校の後輩にあたる原嵩投手だった。

「ビックリしました。テレビで見て引退を知りました。悲しかったです。ショックでした」

 憧れの大先輩だ。稀勢の里が新横綱として挑んだ大相撲春場所で優勝をした時、原はプロ2年目。ケガをしたとされる左腕にテーピング。そしてファンの歓声に男泣きする姿に身震いをするほど感動をした。中学校時代に聞いた稀勢の里の言葉は今でも胸に刻んでいる。

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「実家も歩いていけるぐらい近い。一度、学校に講演に来ていただいたことがありまして、その時のメッセージは今もハッキリと覚えています」

稀勢の里の小、中学校の後輩にあたる原嵩 ©梶原紀章

中学時代に感動した稀勢の里の言葉

 それは原が中学校3年生の時。大関だった稀勢の里が茨城県龍ケ崎市内の母校を訪れた。体育館に全校生徒が集められ、講演会が開かれた。野球に打ち込んでいた原は、初めて見る大先輩で大物アスリートの姿に感動をした。そしてその言葉に聞き入った。

「なにか打ち込めることを見つけてください。そして、それにどんどん打ち込みなさい。辛いことや苦しい時期もあるだろう。でも、打ち込んで、努力をしていけば、道は開ける」

 努力をして叶わないことなんて、ない。だから、とことん努力しろ。当時の原にはそう聞こえた。胸に刻んだ。そして講演後、たまたま近くで見守っていたお弟子さんに聞いてみた。「稀勢の里さんはどれくらい練習をされているのですか?」。目を輝かせながら質問をした少年にお弟子さんは笑顔で答えてくれた。「すごいよ。大関になっても練習量は変わらない。体が疲れて辛い時も、ケガをして苦しい時も練習を休まない。本当にとことん練習をされる方です」。お弟子さんとのそんなやりとりが今も忘れられない。原の胸の中に、ずっと残っている大切な記憶だ。

 食事量の話も驚かされた。当時の原は体を大きくしようと4合分のご飯をお弁当にして持ち込んでいた。ところが、稀勢の里は中学校時代にもっと食べていたことを講演で語っていた。自分自身では、こんなに食べている中学生はいないだろうと思っていただけに、驚かされた。そして世の中というものが自分の想像をしているほど甘くはないことも悟った。上には上がおり、自分が満足している領域は実はまだまだやれる途中ではないか。そう感じた。それからだ。なお一層、雲の上の存在である大先輩に興味が湧いた。後日、機会があり学校に残っていた稀勢の里の卒業文集を見ることが出来た。衝撃的な言葉が記されていた。

「努力で天才に勝ちます」

 何度も読み返した。その短い一文から強烈な力を感じた。心を揺さぶられる想いがした。それからだ。苦しい時、辛い時、壁にぶち当たった時はこの言葉を胸の奥で何度も反芻するようにした。