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彼女が自ら終止符を打つことができなかった理由

 すでに家族や自分の遺伝子を残すということをとうの昔に達成している彼は孤独死する不安や、こんな非生産的な時間を過ごしていいのかという焦りとは無縁なわけで、何年もバレずに続けてきた彼女との付き合いが自分にとってマイナスにならない限り、終わらせる理由がないのは明らかだった。彼女としても、終わるきっかけは、孤独死も焦りも具体的な不安として抱えている自分の方が作らなくてはいけない、と、途中から思ってはいたが、直接的には何の害も不満もない彼と、もう会わないと決めるのは難しく、もう少し一緒にいよう、誰かと出会いがあるまでは彼といよう、と先延ばしにしているうちに、また1年も2年も時間は過ぎた。その間も、二人でいる時間にはストレスがなく、長年一緒にいればいるほど、他の人と新しい恋愛をするのはとても面倒に思えてしまう。

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 結局、彼女は自分から彼との付き合いに終止符を打つことはできなかった。それでも、彼女は彼と会わなくなった。彼が勤務中に脳梗塞で倒れたのだ。命は助かったものの、今までのように深夜まで自由に出歩けるような状態ではなく、そもそも入院中にはお見舞いに行けるわけもなく、結果的に彼が倒れてからその後は一度も会うことはなかった。何度かメールでのやり取りはあったが、彼の中では、彼女との付き合いを何とかして続けるというのはもう無理だという答えが出ていたようで、割とあっけなく終わることとなったのだ。

33歳 ギリギリまだ色々将来のこととか考え直せる時期

 現在、彼女は同い年のバツイチの彼と同棲を始めていて、結婚の話を具体的に進めている。

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「正直、彼が倒れた時は死ぬほど辛かったし、怖かったし、何でまだまだ若いのにそんな下手したら死んじゃうような病気になるのか、運命が残酷すぎると思ったけど、そのきっかけがなかったら私は絶対に彼と別れる勇気はなかったわけで、そう考えるとあの事件がなかった方が実は怖いかも。本当に、あのタイミングで病気になったおかげで33歳でギリギリまだ色々将来のこととか考え直せる時期にフリーになれた。不謹慎だけど運がよかったとも言える」

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 思い起こせば、彼女は学生時代から、恋愛を自分から終わらせたことはなかった。それでもお互い独身の恋愛であれば、彼の心変わりや、お互い別の大学に進んだタイミング、どちらかの浮気、働き出すタイミングなど、別れる理由やきっかけはいくらでもあった。なんかこの人と合わないな、とか、将来のビジョンが違いすぎるな、と思っても、何となく続けてしまってはいたが、別れ話をこちらから切り出さなくても、終わりというのは訪れるものだった。「私みたいに別れるのが苦手な人は、既婚者との恋愛は尚更終わらせられない。本当はしちゃいけない人種」とも言っていた。