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山手線の遅延は大きなニュースか、小さなニュースか

 パーソナライズは、個人の嗜好の総和です。だけどそこにはセレンディピティ(偶然との出会いや予想外の発見)がない。まったく意識していなかったけど、目の前に提示されると思わず「そうか!」と膝を打つ体験は、われわれが憧れてもいたものであり、コンテンツ体験の醍醐味だろうと思うんですね。

 とはいえ、パーソナライズを排してセレンディピティだけというのでは、誰も見向きもしません。ユーザーを取り巻く文脈を知ることも大事で、たとえば山手線の遅延は北海道にいる人にとっては小さなニュースですが、東京で通勤する人には大ニュースですよね。経営者層の方々だって、お昼時にはラーメン屋の情報が刺さることもある。でも、そういった刺さる情報だけしか出てこないメディアが、高いコンテンツ体験を提供しているとは思わないんです。人類はもっと別の体験をしてきたはずで、そちらを目標にしたいんですね。

オフィス内にはカフェもある!

――SmartNewsのチャンネルはユーザー自身でカスタマイズできるので、てっとり早く情報を得たい人は自らパーソナライズしてしまいそうですが。

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 はい、チャンネルは増減も並べ替えもできます。それでも、SmartNewsを毎日のように使っているアクティブユーザーさんは300万人ほどですが、90%以上はデフォルトのままで使われています。必ずしもご自身の関心の強くないカテゴリーも横断しながら、好きなニュースを読んでいる。

 通勤電車でSmartNewsを使っている方がいると、どのニュースを読まれるのかとついつい覗き見してしまうのですが、みなさんあっちこっちと横断されていて、なかなか記事を読まずにヤキモキしてしまうんですよね(笑)。ユーザーのニーズに先回りするのが親切なサービスだとするならば、SmartNewsは不親切なサービスだといえるかも知れません。たくさんの見出しから、あくまでもユーザー自身の意思で選びとってもらう、その実感を持っていただくことはインターフェースも含めて意識していますね。

――ツイッターやフェイスブックでも、記事を読まずにリツイートしたりシェアする人が相当数いるといわれていますが、飛ばし読みやザッピングと同じ種類の情報摂取なのかも知れませんね。

 精読せずにぱっと見で、ある種の情報を摂取するというのは誰しもやっていることだと思います。電車の中吊り広告や電光掲示板の1行ニュース、隣の人の読んでいる新聞や雑誌からでさえも人は多様なインサイトを得て、思いの変化が起こっている。一本の記事を精読する体験も、さまざまな情報の気配に触れることも大事なコンテンツ体験で、両方とも失いたくないんです。

 

ふじむら・あつお スマートニュース株式会社 執行役員、メディア事業開発担当。1978年法政大学経済学部卒業。90年代に、株式会社アスキー(当時)で書籍・雑誌編集者、日本アイ・ビー・エム株式会社でマーケティング責任者を経て、2000年に株式会社アットマーク・アイティを起業。その後、合併を経てアイティメディア株式会社代表取締役会長。2013年より現職。

写真=榎本麻美/文藝春秋