ユーザーの好みを提供すればいいわけじゃないという教訓
――そういった体験を完全な偶然に委ねるのではなく、ある程度まではシステムやアルゴリズムで誘導したい、ということでしょうか。
SmartNewsのオリジナルのコードは創業者(現・共同CEO社長)の浜本階生が書いたものですが、彼は組版の本なども読み込んで、レイアウトのルールをコードに反映させたそうです。英語版アプリのフォントもデフォルトのものではなく、我々が選んで搭載したものです。アメリカのデザイナーやジャーナリストに、そこをおろそかにするとクオリティがまったく別物になってしまうんだと言われたそうです。
――ただ、SmartNewsも広告収入で成り立つビジネスモデルである以上、関心の高い記事を確実に読んでもらうほうが効率は良いのでは?
おっしゃる通りで、コンテンツに見えないインデックスをつけておいて、ユーザーの閲覧履歴と合致するニュースから表示したほうが、技術的にも簡単ですし、広告モデルとの相性もいいんです。
実際にSmartNewsのシステムは、今この瞬間によく読まれているオンライン上のコンテンツをリアルタイムに把握していて、いわばコンテンツの通信簿を毎秒ごとに更新しています。通信簿で評価の高い記事を、ユーザーの関心に合わせて提供する仕組みは、日本だけでなく世界のニュースメディアに適応できると自負しています。メディアは言語や文化の障壁があり、国境を越えにくい性質がありますが、仕組みは越えられると考えています。
――ニュースの個人化、パーソナライズですね。
はい。ただそれは、我々がコンテンツに求めてきた出会いの体験とは、すこし違うという認識があります。芸能ニュースも見たいけど、地球の裏側の出来事も知りたい、それで得られる感動がSmartNews立ち上げのテーマでした。
浜本は、ユーザーのソーシャルな動向にマッチしたニュースを配信する、完全にパーソナライズしたポータル「Crowsnest」を作った人物でもあります。いわばSmartNewsの前身となるニュースサービスですが、これはユーザーの支持をあまり得られませんでした。ユーザーが好きなテーマだけを提供すればいいわけではないという教訓が、SmartNewsの基礎にあるんです。